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第四章 おしゃれなマージ

小鳥たちがフロムの木に集まって、ピーチク♪パーチク♪おしゃべりをしています。
「私の青い羽根はどう?」

「なんて、きれいなんでしょう!でも、私の黄色いくちばしも緑の羽毛にはえて、とってもきれいでしょ?」などと、自分たちの美しさを自慢し合っているのです。すると――

「ホウホウホウ、うるそおて、おちおち寝ていられんぞ!」フロムが眠そうな目をこすりながら、あなから出てきました。

「まったく、おまえたちは、口を開けばおしゃれのことばかりで、他に興味はないのか?」

「ないも~ん!」黄色いくちばしの小鳥が、そっぽをむきました。

「うわっ、そんなことばかりしていると、マージみたいになってしまうぞ!」

「えっ?マージってだれよ?」青い小鳥がききました。

「森一番のおしゃれな鳥じゃよ!」そいって、フロムがマージの話を始めました。

むかし、フロムの森にマージという、それはおしゃれな鳥がいました。ツンとのびたくちばしに、すらっとした長い足がじまんです。いつも秘密の泉にいっては、水面にうつる自分の姿をみながら、満足げにたずねました。

「この森で一番美しい鳥はだれかしら?」
 すると、泉がこたえました。

「それはマージよ♪」

         
 ところがある日のこと、森にインコがやってきました。インコは赤や青や黄色のきれいな羽で着かざって、とってもきれいです。
 それをみて、マージは思いました。

「なんてきれいな鳥なのかしら。やっぱりスタイルだけじゃなく、美しい羽がないと美しい鳥にはなれないわ」
 そして、いつものように泉にいくと、水面にうつる自分の姿をみて、つぶやきました。
「わたしにも、インコのようにきれいな羽があればいいのに!」
すると、泉がいいました。

「わたしは姿をうつすものの願いをかなえる魔法の泉です♪あなたが望めば、どんなすがたにもなれるのよ♪」
 そこでマージは、水面にうつる自分の姿にむかっていいました。

「わたしの羽よ、インコの美しい羽になれ!」
 するとどうでしょう。なんと、マージの白い羽が、赤や黄色や青のきれいな羽に変わったではありませんか。

         
 マージが満足げにたずねました。
「この森で一番美しい鳥はだれかしら?」

 泉がこたえました。
「それはマージよ♪」

 ところがまたある日のこと、森にエボシドリがやってきました。エボシドリはとてもすてきな帽子をかぶっています。
それをみて、マージは「あんなすてきな帽子がほしいわ」と思いました。そして、泉にいくと、水面にうつる自分の姿にむかっていいました。
「わたしのあたまに、エボシドリの帽子よかぶれ!」
 するとマージのあたまのうえに、とてもきれいなぼうしがあらわれました。
   

またまたある日のこと、今度はゴクラクチョウが森にやってきました。ゴクラクチョウはきれいな羽の長いコートをまとっています。
 それをみたマージは「あんなすてきなコートがほしいわ」と思い、泉にうつる自分の姿にむかっていいました。

「わたしにゴクラクチョウのコートをまとらせて!」
 するとマージのからだは、きれいな羽の長いコートにつつまれました。
     

そして、またある日のこと、今度はクジャクが森にやってきました。クジャクの羽はきらびやかな目のもようがたくさんあって、この世のものとは思えないほどきれいです。
  それをみたマージは「あんなすてきなもようの羽がほしいわ」と思い、泉にうつる自分の姿にむかっていいました。

「私の羽にもクジャクの美しいもようをつけて!」
  するとマージの羽に、きらびやかな目のもようがたくさんつきました。
 なんという美しさでしょう。水面にうつる自分の姿にうっとりしながら、マージがたずねました。

「この森で一番美しい鳥はだれかしら?」
 すかさず泉がこたえました。

「この森どころか、この世で一番美しいわよ、マージ♪」

こうして、マージは世界で一番美しい鳥になりました。マージが歩けば、森のだれもがその美しさにふりむきます。マージがはばたけば、森のだれもがその美しさに見とれます。森じゅう、マージのうわさでもちきりでした。
 ところが、そんなうわさは森の中にとどまらず、いつしか人間の世界にまでもつたわったのです。そのうわさは人間の王さまの耳にもとどき、王さまは「世にも美しい鳥をとらえよ!」と、国中におふれをだしました。そして、おおぜいのハンターたちがフロムの森にやってきました。
 ハンターたちは森のあちこちにワナを仕掛け、鉄砲を手に森じゅうをさがしまわりました。森の鳥たちは大さわぎです。

「たいへんだ!ハンターたちが来るよ!」

「つかまったら、はく製にされちゃうぞ!」
 そう、口ぐちにさけびながら、鳥たちは大あわてで、みんな森からにげだしてしまいました。

  
 でも、マージだけは長い羽のコートをまとっていたので、うまく飛べません。それに、色とりどりで、きらびやかなもようの羽は、あまりにも目立ちすぎます。草むらのなかに隠れようとしても、きれいなぼうしが草むらからとびだしてしまいます。
 とうとう逃げ場をうしなったマージは、さいごの頼みに泉へいきました。そして、泉にうつる自分の姿にむかっていいました。

「おしゃれなんて、もうこりごりだわ!だれにも振り返られないような、目立たない姿になりたい!」
 すると、マージの羽からは色やもようが消え、帽子も長いコートもなくなりました。だれも振り返らないような、とても目立たない姿に変わったのです。おかげで、マージはハンターたちに見つからず、命からがら逃げ出すことができたのでした。
 こうして、マージは目立たない姿になりましたが、もとのようなおしゃれな姿にもどることもなく、それからは陰の中でひっそりと暮らすようになったということです。

「えっ、それでおしまいなの?」

「もう、おしゃれができないなんて、つまんないわ!」

「いったいなにがいいたいのよ?」
 小鳥たちが不満そうにいいました。

「だから、おしゃればかりにうつつをぬかすと、ひどい目にあうということだ」そういって、フロムが木陰を見おろしました。「なあ、マージ」
 すると、木陰に隠れていた黒い鳥が鳴きました。

「カァー!」

     

【フロムの豆知識】

 世界には美しい鳥がたくさんいますが、世界一美しい鳥はグアテマラの国鳥ケツァール(カザリキヌバネドリ) だといわれています。体長は35センチほどですが、オスは長い飾り羽をもっていて、全長が1メートルをこえます。腹は赤く、背中はかがやくエメラルド・グリーンをしています。