5)「やさしい木」 そよ風がこずえをゆらし、木漏れ日がゆれるなか、子リスたちが木の実を抱えて、フロムのあなにやってきました。 「フロムのおじさん、いつまであなのなかでねているの?」そういって、こりすが木の実をさしだしました。 「ホウホウホウ、ありがとう」フロムがあなからはいでてきました。 「最近ねこんでいるようだから、これでも食べて元気をつけて」 「そうか、やさしいんだね」フロムがニコリとわらいました。「やさしいといえば…、ある木のことを思い出すな」 そういって、フロムは「やさしい木」の話を始めました。 むかしのことです。フロムの森を見下ろす小高い丘の上に、一本のふしぎな木がはえていました。それはみんなの願いをかなえる、やさしい木です。 雨がザーザーふる日に、一匹のキツネが木の下にやってきていいました。 「雨に降られてビショビショです。どうか雨宿りさせてください」 すると、木は枝を広げて雨をさえぎってくれました。 「このところエサにありつけず、ひもじい思いをしているんだ。なにか食べさせておくれ」 すると、木は枝をふるわせて大きな木の実をたくさん落としました。おかげで、クマは木の実をたらふく食べて、元気をとりもどすことができました。 またある日、今度は足をケガをしたウサギがやってきていいました。 「ワナにかかってケガをしています。どうかこの傷を治してください」 すると、木はかわいそうに思ったのか、樹液の涙を流していいました。 「この樹液を傷口におぬりなさい」 ウサギが樹液を傷口に塗ると、なんとまたたく間に傷が治ったではありませんか! 「ありがとう!」ウサギは木にお礼をいうと、ピョンピョン跳ねて帰って行きました。 またある日のことです。一匹のヤマアラシが木の下にやってきていいました。 「みんなボクから逃げていくんだ。ボクはみんなと友達になりたいのに…。どうか、ボクに友達をください」 ポロロン♪ポロロン♪ポロポロロ?ン♪ 妙なる音色が風に乗り、森じゅうに響き渡りました。すると、その音色につられて、森からたくさんの動物たちが集まってきました。 ポロロン♪ポロロン♪ポロポロロ?ン♪ その調べはみんなの心をうきうきさせました。やがて、ヤマアラシの奏でる曲にのって、動物たちが踊り始めました。 ヤマアラシもうきうきして、踊りながら演奏しました。そして、ヤマアラシは、みんなの人気者になったのでした。
またある日のこと、木の下に一羽のフクロウがやって来ていいました。 「ホウホウホウ、わしが今まで住んでいた木に雷が落ちて、燃えてしまったんだ。どうか、わしに住みかをあたえてくれぬだろうか?」 すると、やさしい木の幹にポッカリとあながあきました。 「どうぞ、ここにお住まいなさい」やさしい木がいいました。 そして、このあながフクロウの住み家になったのです。 「あれ?もしかして、そのフクロウっておじさんのこと?」子リスがたずねました。 「ホウホウホウ」フロムがうなずきました。 「じゃあ、この木が…?」 「ホウホウホウ」フロムが目をとじました。
「ねぇ、すみごこちはどうなの?」 「ホウホウホウ、そりゃ良いに決まってるだろう。雨風をしのげるのはもちろん。暑い日は涼しく、寒い日は暖かい。それに…」フロムがかた目をつむりました。「なんといっても、大家がどんな願いもきいてくれるしな」 【フロムの豆知識】 木は害虫などから身を守るために「フィトンチッド」という物質を発散しています。 |