7月28日「風立ちぬ」
今日は久しぶりに、川崎の109シネマズに行ってきました。シネマポイントカードのポイント有効期限が、今月末で切れてしまうので、急遽、宮崎駿監督の「風立ちぬ」を観てみることにしました。ここ最近の宮崎作品は私の期待を裏切り続けていますが、今回は如何でしょうか?
宮崎駿監督の最新作、「風立ちぬ」は主人公の声を素人の庵野秀明が演じています。それには賛否両論あるようですが、私は、その素人臭い朴訥とした話っぷりが、かえって昭和初期の映画俳優を想起させ、作品の時代に合っていると感じました。
また、この作品のポスターにある、丘の上でキャンバスに向かう女性の姿は、光の画家クロード・モネの「日傘の女」を連想させます。風を表現するには、風そのものを描くのではなく、風で動く物や音で表現するのですが、この時一番重要な要素が光と影なのです。その意味で、このシーンをメインに持ってくることからも、今回の作品が、多分に「風」を意識した作品だということがわかります。
宮崎アニメ「風立ちぬ」は、世界に冠たる零戦を創り上げた堀越二郎の半生を、堀辰雄の小説「風立ちぬ」を借りて語った半ファンタジー・アニメです。表向きは、戦争の兵器として使われるのを知りながら、ただ美しい機体を創りたいがために、戦闘機の設計に邁進する青年の矛盾と葛藤を描いていますが、それはまさしく、戦争を否定しながらも、今までアニメの中で多くの人々の殺戮シーンを描いてきた、宮崎氏本人が抱える矛盾と葛藤の裏返しと言えるでしょう。
つまりこの作品は、物創りに励む人(堀越=宮崎)が、物創りの憧れについて綴った愛情物語なのです。飛行機作りで、欧米に20年遅れているという主人公の焦りは、アニメ製作において、宮崎氏自身が感じていたことでしょう。ですから、夢に出てくるカプローニ男爵はアニメにおけるフライシャーであり、ユンカースはディズニーなのです。そして、初めての成功作である、九試単座戦闘機は、ジブリ創設の発端となった「風の谷のナウシカ」に他なりません。
そう、「風立ちぬ」の「風」とは、「ジブリ」自体を指すとも言えるのです。ですから、ナウシカで巨神兵の原画を描いた庵野秀明を主人公の堀越二郎の声優に抜擢したのも、そんな意図が込められているのではないかと思うのです。
総じて、今回の作品は、ポール・ヴァレリーの詩の一節で紹介される「いざ生きめやも」というテーマがあまり感じられないし、物語としては、菜穂子との再会があまりに唐突だったり、「堀越二郎の実話」と「風立ちぬ」の融合は、あまり上手くいっているとは言い難いと思います。しかし、憧れのカプローニ男爵を「ファウスト」のメフィストのような役回りにした構成は、すこぶる意欲的で、大変面白く観る事が出来ました。ですから、私としては、最近の宮崎アニメの中でも、一番好きな作品と言えるかもしれません。当然、海外の映画賞も沢山受賞することでしょう。
余談ですが、今回のアニメで人の声を音響効果に利用した手法は、ジブリの森美術館の土星座で公開されている短編アニメ「やどさがし」で使われていた手法です。前回の「崖の上のポニョ」が「くじらとり」の応用であったように、ここで公開されている短編アニメは、どれもこれも大変意欲的で、優れた作品ばかりです。ここだけで公開なんて、実にもったいない。一般公開されたら、毎年アカデミー賞を獲れるのにと思うのですが…。
☆☆☆☆☆★★★
賛否両論あるでしょうが、私は楽しめました。現代アニメ世代には、到底理解できないかも知れませんけど。
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