FEBRUARY 2010
Diary

2月7日「サロゲート」「ラブリーボーン」「Dr.パルナサスの鏡」

109シネマズ・ブロンズカードのポイントが映画3本タダで観られる程貯まったので、109シネマズ川崎へ行ってきました。しかも、109シネマズ川崎の全スクリーンにはエクゼクティブシートが設置してあるのです。というわけで、映画3本エクゼクティブシートに座ってタダで観ることができました。でも、1日3本観るのはさすがに身体に応えます

「サロゲート」
 近未来の世界。人々は自宅に引きこもり、自分の分身としてのロボット〈サロゲート〉を遠隔操作して生活していました。なにしろサロゲートを使えば、戦争など危険な仕事を代行させたり、自分の理想の姿形に成り代わることも出来るのです。というわけで、サロゲートは人間の欲望や夢を本人に代わって実現してくれる夢の機械として売り出され、瞬く間に全世界に広まったのでした。ところがある日、数体のサロゲートが何者かによって破壊され、同時に絶対に安全だと思われていた本体の方も命を奪われるという事件が起きたのです…。

 インターネット上の仮想空間に自分の分身として動かすキャラクターが「アバター」なら、この「サロゲート」は現実世界で自分の分身として動かすロボットという実体を持った存在です。ロボットを動かすには動力もいるし、機械ですから故障もすれば老朽化もします。何かと余計なエネルギーを使うという意味で、地球に優しくないシステムです。でも、本来は身障者や老人のために開発されたそうで、外に出られない人の代わりに外へ出るという意味では有意義なモノだったのでしょう。それが世界中に広まり、みんな自宅に引きこもった生活を送っているとなれば、本末転倒も甚だしく、一体何のための発明なのか分からなくなってしまいます。
 
 それにしても、「ターミネーター3」のジョナサン・モストウが監督しただけのことはあって、やっていることは世界規模なのに、その大きさがいっこうに伝わって来ません。折角大金をかけて作ったにも拘わらず、なんともこぢんまりとした印象で、全体として小品なイメージしか残りません。実際の街並みの背景に高層ビル群を合成するとかすれば良いのにと思ってしまいます。どうもこの監督は大風呂敷がヘタなようで残念です。
 ☆☆☆★★
 
「ラブリーボーン」

 14歳の少女スージー・サーモンはある日、近所に住む男に襲われて殺害されてしまいます。遅々として進まぬ警察の捜査に業を煮やした父親と妹は独自に犯人捜しを始め、心の整理がつかない母親は家を出て行ってしまいました。一方、この世と天国の間を彷徨うスージーは、事件を境に散り散りになっていく家族の様を、ただ黙って見守るだけで、何もすることが出来ないのでした…。
 
 14歳の初々しい少女の目を通して語られる、死後の世界と現実の世界。両者は決して交わることが無く、何も手出しを出来ないでいるスージーの歯がゆさが切実に伝わって来ます。そして、それが人生の中途で命を絶たれてしまった少女のやるせなさと相まって、見る者の胸を打ちます。
 
 霊となった少女は現実世界に対して何もする事が出来ないので、殺人犯に復讐することはもちろん、残された家族を守ることも助言することも出来ず、ただ見守るだけしかありません。そこがこの物語のユニークなところであり、また賛否の分かれるところでもあります。死者の霊が癒されるのは、残された者たちが死者の復讐を果たすことではなく、ただ平穏に生き続けることにあるというテーマを受け入れられるかどうかで、この作品に対する評価が大きく分かれるでしょう。
 
 主人公は死んでしまっており、現世と交わることも許されないとあって、死者の視点から描かれる物語はそれ自体盛り上がりに欠けるものになりがちですが、巧妙なシナリオと美しいビジュアルのおかげで、奇妙なスリルとサスペンスに溢れています。そして、純真無垢な少女の心に感情移入出来れば、不思議な感動さえも呼び起こしてくれるでしょう。
 
 ☆☆☆☆★★★(私は意外と好きですが、作品の性格上、見る人を選ぶと思います)
 
「Dr.パルナサスの鏡」

 ロンドンの街に毎夜現れるDr.パルナサス率いる旅芸人の一座。彼の出し物は、入る者の秘められた願望を映し出す不思議な鏡「イマジナリウム」でした。ある夜、博士の娘ヴァレンティナは橋の上で首を吊っている男を救います。記憶を失ったその男はそのまま一座に留まり、一座と行動を共にするようになりますが、博士には一つ心配なことがありました。それは、その昔悪魔と交したある約束のことで、もうじきその期限が訪れるのです…。
 
 テリー・ギリアムは実に災難続きの監督です。「未来世紀ブラジル」ではユニバーサル・スタジオに勝手に結末を変えられてしまうわ、ドン・キホーテの映画では洪水や主役の降板で製作中止に追い込まれるわ、「ローズ・イン・タイランド」は米国公開を配給会社から拒否されるわで、全く映画の神から見放されたというか、悪魔に呪われているかのようです。そして今作では、なんと主演のヒース・レジャーが撮影半ばで急逝してしまいました。
 
 でも、そうした災難にもめげず、それをバネとして見事に這い上がってみせるのがテリー・ギリアムの鬼才たる所以でしょう。今作でも「イマジナリウム」という設定を活かし、鏡の中にはいるとその容姿も変わることにして、ヒースの友人達に代役を依頼したのでした。しかも、ジョニー・デップ、ジュード・ロウ、コリン、ファレルの3人が代役を務めるという豪華な布陣です。まさに、災い転じて福を成すというか、転んでもただでは起きない、テリー・ギリアムの面目躍如というところです。
 
 こうした紆余曲折を経てようやく完成に漕ぎつけた今作は、まさにテリー・ギリアム本人を描いたような作品です。Dr.パルナサスとはギリアム本人であり、イマジナリウムとは彼の作る映画そのもの。観客はイマジナリウムというギリアムの描く妄想の世界の中へと引き込まれていくのです。
 
 相変わらずギリアム節は健在で、そのどこか舞台装置のような作り物風なテイストの美術は、CG技術のおかげで独創性に更に磨きが掛かり、アカデミー賞美術部門にノミネートされたのも頷けるというものです。
 
 ただ、3人で一役という変則技は感情移入がしづらく、どうも物語に入りにくい印象を与えます。その意味で上手く行ったとは言い難く、いっそのことトム・クルーズ主演にした方が良かったのではないかとさえ思えてしまいます。

☆☆☆☆★★(個人的には好きですが、一般的にはどうかと問われると微妙です)