4月16日「グラン・トリノ」
今日は読売ホールへ「グラン・トリノ」の試写会に行きました。「ミリオン・ダラー・ベイビー」で俳優引退を宣言したクリント・イーストウッドですが、この作品のシナリオを読んでもう一作だけ銀幕に復帰することにしたそうです。全米で去年の12月12日に少数館で限定公開した後、今年の1月から拡大公開され、その後もロングランを続け、結局イーストウッド最大のヒットとなった作品です。観客の評価も高く、何がそんなに受けたのか非常に気になっていましたが、ようやく観ることが出来ました。
ウォルト・コワルスキーは偏屈で頑固な老人です。朝鮮戦争で受けた心の傷に苛まれ、ところ構わず悪態を吐き、周りの人々との間に壁をつくっています。おかげでふたりの息子達にも疎まれ、妻に先立たれた後は、貧民街の一軒家でただひとり孤独の生活を送っています。そんな彼の唯一の慰みは、ピカピカに磨き上げた自慢の愛車「グラン・トリノ」を眺めることでした。
ところがある日、隣のアジア系移民一家の息子タオが不良グループにそそのかされて、こともあろうか「グラン・トリノ」を盗みに入ったのでした…。
イーストウッドの抑揚を抑えた演出は極めて自然で、少しも奇をてらったところがありません。ただ淡々とエピソードを繋げていくだけなのに、何故か画面にグイグイと引き込まれていきます。まるで円熟した武道の達人ワザを見るかのように、静かだが力強い、そんな神業的な演出力で観る者を魅了します。
ところで、タイトルの「グラン・トリノ」とはフォード社がオイルショックで低迷する直前に発売した「アメ車最後の栄光」と呼ばれる車です。言わば大量消費大国米国の申し子みたいな車です。また主人公の隣に住むモン族の一家ですが、このモン族とはベトナム戦争当時米国軍に協力していたが米国軍撤退の際見捨てられ、その為に帰る地を失った悲劇の民族です。つまり、朝鮮戦争のある意味被害者の主人公の家の隣にベトナム戦争の被害者が引っ越してきたということです。映画ではこの両者の関わりをユーモアと皮肉を込めて描かれますが、なかなか意味深いものがあります。
そんなわけで、米国の過去の栄光(グラン・トリノ)をタイトルに掲げる今作は、ある意味米国に捧げる挽歌であり、その再生への道しるべを示す物語でもあるのです。そして、イーストウッドは「許されざる者」で荒野の名無し男と決別しましたが、この「グラン・トリノ」でハリー・キャラハンと決別したのでした。
☆☆☆☆☆★★★★
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