JUNE 2007
Diary

 6月9日 「300」

 ポイントが貯まったので、109シネマズ・グランベリーモールにて、「300」をエクゼクティブシートで無料鑑賞しました。
 
 フランク・ミラーの同名コミックを、「シン・シティ」同様のコンセプトでコミック映像化した作品です。コミックの映画化と言うよりも、映画のコミック化と言うべき新しい映像表現です。全編抑えた色調で、宗教画のような神々しさを放ちながら、暴力と殺戮の限りが展開されます。もう、手足や首が次々と吹き飛び血飛沫が舞いますが、この新しい映像表現のおかげで、少しも残虐さを感じさせません。むしろ、魂を高陽させる爽快さと美しさがあります。
 
 映像と共に注目されるのが、変速的なスローモーションによる動きのデフォルメです。アクションの動きが急にスローになったり、いきなりすっ飛ばしたりして、見せたいところはじっくりと、早いところはフラッシュで極端に素早く跳ばします。もちろん「マトリックス」に見られるジャパニメーションの影響とは思いますが、スローの部分がタメになって、後の動きが更に早く強調され、実に爽快です。剣の殺陣もスローで丁寧に見せるので、非常に分かりやすく、実に格好いい。この技法、これからも様々な映画で多用されることでしょうね。
 
 さて、話の元となった「テルモピュライの戦い」は、紀元前480年ギリシャに押し寄せて来た200万のペルシャ軍(実際には21万という説が有力)に対し、7000人のギリシャ連合軍(記録では5000人余りと言われる)と300人のスパルタ精鋭部隊がテルモピュライ街道で迎え撃った、歴史上名高い戦いです。数において圧倒的に勝るペルシャ軍でしたが、スパルタの誇る強力な戦闘集団の抵抗にあい、思わぬ苦戦を強いられます。結局戦闘は3日間に及び、ペルシャ軍は2万人もの兵士を失いました。そして、この戦いが当時バラバラだったギリシャ諸国の結束を喚起し、後の大反撃に結びついたと言われます。その意味でスパルタの300人は、異教徒達の侵略に対して、自由と民主主義を守るために命を賭けて戦った殉教者とも見られるわけです。
 
 アメリカでこの映画が大ヒットした背景には、イラク侵攻など、中東におけるアメリカ軍の活動をこの映画にダブらせて、「自由と民主主義のための戦い」という大義名分とともに、様々なわだかまりを払拭したということが挙げられるでしょう。ギリシャ彫刻のような完全美形のスパルタ兵に対して、殆ど化け物のようなペルシャ軍という、正義と悪を明確にしたデフォルメにより、敵をいくら殺しても罪悪感など微塵も感じられません。
 
 あるいはアメリカのプロパガンダと見られないわけではないこの作品ですが、純粋に映像の美しさとアクションを楽しむ事が出来れば、これ程胸踊り血が騒ぐ娯楽作もありません。所詮は大昔の歴史ファンタジーなのですから、細かいことは抜きにして、この新しい映像世界に浸り、大いに楽しむことをお奨めします。
 
 ★★★★☆☆☆☆(この映画に触発されて、ビリーズ・ブートキャンプを始めよう!)
 
 300に関する個人的裏話
 
 1)製作にも名を連ねる原作者のフランク・ミラーは、これまで自分の作品に必ずカメオ出演していましたが、今作では確認できませんでした。(多分、会議場にいるか、ペルシャ兵のひとりになっていると思われますが…、DVDになったら確認します)
 
 2)形状と設定がかなり違いますが、神託を行った神殿はデルポイ神殿だと思われます。そう、ポポロに登場するあの仙人の元ネタですね。
 
 3)「シン・シティ」「300」と映画化作品がヒットを続ける中、当然フランク・ミラーの他の作品も映画化されることが予想されますが、そこで期待されるのがジョフ・ダロウ(ジェフリー・ダロウ)君との共作「ハードボイルド」と「ビッグガイ」です。さぞやダロウ君も「300」の大ヒットを喜んでいると思ったら、ダロウ君は「300」が嫌いだとのこと。曰く「人種差別とブッシュの宣伝映画だ」。うん、さすがダロウ君は真面目だなあ。