12月2日「一分とボンド」
…ということで、昨日の続きです。
「武士の一分」
名匠山田洋次監督の時代劇。藤沢周平原作の時代劇三部作の完結編なのだそうです。主演に木村拓哉を持ってきて、盲目の剣士をやらせるというのが、なかなかニクイです。確かに絵になりますからね。しかし、今回の白眉は、その妻を演じる檀れいです。この女優は大きな収穫でした。宝塚の娘役をやっていた人で、中国公演の時に楊貴妃の再来と騒がれたんだそうです。なんと言っても、今の邦画界に欠落している本当の意味での美人女優の登場を嬉しく思います。そして彼らに仕える徳平役の笹野高史が飄々として、親しみやすい人柄が場を和ませます。この配役は絶妙です。
話の内容はさておき、この作品は夫婦愛に焦点を当てていますので、意識的に殺陣のシーンは押さえめになっています。ひたすら武士の家庭の日常を事細かに表現することに力を入れています。それは、主人公が決闘をする原因となった事件の描写についても言え、かなりあっさりとした扱いになっています。本来なら、果たし合いの相手がいかに悪いヤツか、じっくり描写して、相手への嫌悪感を煽るところですが、そうはしません。何故なら、それをしたら夫婦愛にドロドロとしたイメージを持ち込んで、全体としての印象を汚しかねないからです。
このようなわけで、この作品では、大げさに声を張り上げたり、泣き叫んだするりといった邦画特有のオーバーな表現は鳴りを潜め、主人公たちは、ひたすら感情を押し殺し、堪え忍びます。そして、これがこの作品の最大の見所だと思います。ですから、時代劇三部作の中でも、最も上品で地味な印象を受けました。シナリオも緩いし、見せ場もないし、劇映画としてはとても食い足りなさを感じますが、この質素でホンワカしたところがまた良いのかもしれません。わたしとしては、もっと言葉少なに忍んでも良いかと思いましたが、それでは観客には分からないだろうなあ。観客の反応も上々なので、興行的にはヒット間違いないでしょう。
☆☆☆★★★★(非常に質素で地味な佳作です)
「007カジノロワイヤル」
何だ、この新しいボンド役者は?まるでロシアのプーチン大統領ソックリじゃないか!こんなの007じゃない!なんて思ったあなた。確かにその通りです。もう、どう見ても、KGBのスパイにしか見えませんよ、このダニエル・クレイグという男。映画の冒頭から、マッチョな身体で暴れ回るし、スマートの欠片もない、粗野で野蛮な振る舞いには目を覆いたくもなります。
でも、それもこれも、すべては、新しい007シリーズを構築しなおそうという、製作者の意図したことなのです。ご存知のように「カジノロワイヤル」は007シリーズの第一作です。バットマンで言えば、「バットマン・ビギンズ」なのです。つまり、ここで描かれているのは、野蛮な「007」がいかにしてスマートな「ジェームズ・ボンド」になったかという、そのいきさつなのです。そんなわけで、こんなやつ007じゃない!なんて思ったあなたは、すでに製作者の思うツボにはまっていたのです。
そんなわけで、007らしからぬ行動がいっぱい出てきて驚かされます。ワイルドなアクションは「ヤマカシ」みたいだし、格闘シーンなど「ボーン・スプレマシー」のようにより現実的だし、賭博シーンなんかホントにスッちゃいそうで、「シンシナティ・キッド」のような緊迫感があります。拷問受けたり、敵の罠にはまったり、もう「24」のようにハラハラドキドキの連続です。どんな時でも余裕とユーモアを見せてくれるのが007なんですけどね。このボンドは、まだまだ修行が足りないです。
このように今回の「カジノロワイヤル」には、新しいシリーズを再構築しようという決意が表れていますが、冒頭の白黒映像は、昔の話だという誤解を招くかも知れません。なにしろ、時代背景はまさに現代ですからね。冷戦も終わり、ボンドは携帯電話も持っています。しかも、映画会社のMGMがソニーに買収されたので、もうソニー製品のオンパレードです。でも、携帯電話もデジカメもノートパソコン等々みんなあからさまにソニーというのは如何なものでしょうか?こうなったら、この際007仕様のVAIOとか出せばいいのに。
ということで、当初はこんなやつボンドじゃねえ!と憤っていましたが、映画が終わる頃には、なかなかイケルじゃないかと納得してしまいました。次回を乞うご期待ですね。
☆☆☆☆★★★★(次回への期待を込めて!)
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