MARCH 2006
Diary

3月1日 「無極と幻影」
 
 映画の日ですので、ワーナー・マイカル新百合ヶ丘へ映画を観に行きました。折からの雨であまり気乗りはしなかったのですが、当初の予定通り「プロミス/PROMISEー無極」と「ナイト・オブ・ザ・スカイ」を観ました。どちらも前評判は今一つでしたが、これが思いの外面白く、私的には満足の一日でした。ただ言えることは、どちらの作品も観る人を選ぶので、誰にでもお勧めできるかというと、それはなかなか難しいかも知れません。
 
 「プロミス/PROMISEー無極」
 
 「さらば、わが愛/覇王別姫」や「北京ヴァイオリン」など優れた作品を世に送り出したチェン・カイコーが脚本・監督し、真田広之、チャン・ドン・ゴン、セシリア・チャンら日本・韓国・中国の有名スターが共演したファンタジー巨編です。正子公也の描くデザイン画の段階から東洋美溢れる世界観に大きな期待を抱かせた注目作ですが、実際出来上がった作品を観ても、非常に美しく印象的なシーンの数々に驚かされます。
 
 しかし、作品全体としてみれば、個々のシーンの繋がりに今一つ関連性が薄く感じられ、綺麗なシーンを羅列しただけという印象が残ってしまいます。…というか、話が突飛すぎてわかりにくいというのが正直なところでしょう。が、その原因の多くは「プロミス/PROMISE」といタイトルにあります。このタイトルはハッキリ言って間違っていますし、観客に大きな誤解を与え、作品を余計にわからなくさせています。これは原題の通り「無極」とすべきだったと思います。
 
 原題の「無極」とは古代中国の哲学的概念で、何も無いと同時に無限を表します。あるいは道の元であり、すべての起因となる点とも解釈されます。池に石を投じると水面に波紋が広がるように、「無極」が動けば「陰」と「陽」に分かれ「太極」が生まれます。円の中に黒と白の巴を描いた「太極図」というものがありますが、「陰が過ぎれば陽となり、陽が過ぎれば陰となる」という陰陽の関係を二つの巴が表しています。また二つの巴の中にはそれぞれ白と黒の小さな円が描かれ、これは陰の中に陽が、陽の中に陰が内包されていることを示しています。
 
 というわけで、この「無極」という概念を踏まえて作品を観ると、様々なシーンで示唆に富んだ描写を見出すことが出来ます。まず、冒頭のシーンで満神が少女に問いかけることによって「無極」が動き、道が生じます。大将軍光明とその奴隷昆崙は名前からも陽と陰の関係にあり、太陽と月は二人を表し、光明の鎧を着た昆崙はまさに陽の中の陰を示します。そして、この二人の間にあって愛に揺れ動く傾城は、まさに太極図の中心にあって陰陽を踊らせる「無極」に他なりません。
 
 …という(北の)公爵でない講釈はさておき、純粋に映画の出来として見れば、その構成には少なからず問題があります。最初にスケールの大きな合戦シーンを持って来ておいて、最後のクライマックスがショボイというでは、どうも尻つぼみな印象を拭えません。最後に満神を登場させて、海を分ける位の大スペクタルを見せてくれても良かったのではないかと思ってしまいます。個人的には大変興味深い内容でしたが、それにしても…あまりに突飛な描写が一般客には受け入れられにくいのではないでしょうか。
☆☆☆☆★★★ 
 
 「ナイト・オブ・ザ・スカイ」
 
 湾岸戦争の頃フランスに行った時、搭乗機がヨーロッパ上空にさしかかると、どこからともなく戦闘機が近づいてきました。件の戦闘機はしばらく併走して飛んでいましたが、後で聞いたところによるとテロを警戒してNATO軍機が旅客機を護衛していたのだそうです。もちろん帰りも護衛機が付きましたが、結構近くを飛んでいたので、双眼鏡があればパイロットを確認できたかも知れません。この「ナイト・オブ・ザ・スカイ」を観て、まさにその時のことを思い出しました。もっとも、この作品では旅客機の真下に隠れるのですが…。
 
 「TAXI」のジェラール・ピレス監督が放つ「ナイト・オブ・ザ・スカイ」は、SFXを極力廃した、本物志向のスカイアクション映画です。主役はまさにミラージュ2000戦闘機。フランス空軍の全面協力の下、フランスの誇る新鋭機の魅力を余すところ無く伝えてくれます。これはある意味、戦闘機のプロモーション映画と言っても過言ではありません。

 とにかく臨場感が素晴らしく、今まで色々なSFXを観てきましたが、流石に本物には敵わないなと痛感します。戦闘機が雲を抜けるところでは、雲が水滴の集まりであることを再認識させられますし、飛行機雲が渦を巻きながら尾を引いていく様には、その美しさに見とれてしまいます。そして特に驚くのが、超音速で超低空飛行するシーンです。アニメやSFX映画でおなじみのシーンですが、実際の衝撃波がどれ程凄いモノかということを思い知らされて、身震いを禁じ得ません。恐らくこの映画以降、アニメやSFXでの同様のシーンに大きな影響を与えることは間違いないでしょう。
 
 更に驚くのが、キャストが実際に戦闘機に同乗して撮影したということです。もちろん特殊な訓練を受けたということですが、それにしても一般人が超音速機に同乗するなんて!一昔前なら考えられないことですが、それだけ乗りやすくなったということをアピールしたかったのでしょうか?
 
 そんなわけで、航空機ファンなら泣いて喜ぶ映像満載の本格航空機アクション映画ですが、
その本物志向が逆に限界を設けて、映像表現の自由を奪っていることも事実です。最後のクライマックスだって、本当ならパリ上空で壮絶な空中バトルを繰り広げて欲しかったし、セーヌ河やシャンゼリゼを超低空飛行して欲しかったと思います。まあ、SFXでも描写が難しいでしょうけど…。

☆☆☆☆★★