7月9日 「ミスティック・リバー」
 
 TSUTAYAに行ったら新作DVDが入荷していたので、ごっそり借りてきました。中でも「ミスティック・リバー」は前から観たいと思っていた注目作です。演技派スターの競演が何かと話題になっていましたが、成る程話の内容からして、彼らの演技力無しには成立しない作品です。単純な犯人捜しと思いきや、事件の背景を解き明かしていくうちに、人間の心の奥に潜むドロドロとした暗部が少しづつ見えてきて、どうにもやり切れない思いに駆られてしまいます。
 
 作品の冒頭から、何故か気になるセリフ、気になる描写が続きます。何故彼はこんな事を言うのだろう?何故こんな行動をするのだろう?沢山の疑問が心に引っかかります。ところが物語が進むに連れ、それらの疑問が次々に氷解していくと、全てが一本の線に繋がり、心の奥底に潜む驚くべき真実が明らかにされるのです。
 
 人々は罪悪感や恐怖など様々な葛藤を心に秘めながら、表面的には平静を装って日々を暮らしています。表面的には弱者に優しい声を掛けても、心の底では自分がその立場でないことに安堵し、又そういった自分に罪悪感を抱いてもいるのです。そして、嫌な物は全て川に流し、素知らぬ顔で平和な家庭を演じていても、いつかは真実が明らかになり、罪を償う日が来ることを恐れているのです。この作品はそんな一般アメリカ人が抱いている心の暗部を見事に描いていると思います。ですから、とてもハリウッド的とは言えない映画です。こんな映画を撮れるのは、クリント・イーストウッドのような気骨のある監督だけでしょう。やはり彼はただ者ではありません。
 
 恐らく「王の帰還」さえ無ければ、アカデミー賞を総なめにしたかも知れません。アカデミー賞授賞式の冒頭で流されたビリー・クリスタルのパロディー映画が、この映画における特に重要なシーンを非常に的確に使っていたことからも、ハリウッドの映画人達がとてもこの映画を気に入っていることが察しられ、微笑ましく思いました。