3月1日 「映画の夢、夢の映画」
 
 さあ今日は第76回アカデミー賞授賞式の日だ。正確には昨夜になるけれど、アメリカと日本では時差があるので、日本では今朝生放送を観ることになる。というわけで、今日は朝からTVの前でスタンバイする。何しろ、もしかしたら歴史的な日になるかも知れないからだ。
 
 生放送ということで何があるか分からないけれど、今回も会場の外でジャネット・ジャクソンの胸ポロリ事件があったとかで、ワザと5秒遅れの放送となった。いきなりショーン・コネリーの開幕の言葉で始まり、もうそれだけで感激だ。
 
 続いて恒例のオープニング・ムービーがスクリーンに映し出される。今年はビリー・クリスタルが久々に司会をするということもあって、テーマもずばり「THE RETURN OF THE HOST」!作品賞候補の映画のシーンをふんだんに使って、もう信じられないくらい豪華なパロディー映画だ。
 
 ビリー・クリスタルが時を越え、海を越え、亀に乗り、パトカーに連行され、もう一人の自分と葛藤しながらも、コールド・マウンテンを目指し、オリファントを倒し、シー・ビスケットに乗って、ハリウッドの城へ司会の任を果たしにやって来る。
 
 そう言えば、以前ビリー・クリスタルが「ギリガン君SOS」の替え歌にのせて「タイタニック」のパロディーをやった時には「タイタニック」が11部門でアカデミー賞を受賞したから、これは「ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還」にとっても幸先の良いスタートだ。
 
 それにしてもアカデミー賞授賞式は、普段は知る由もないハリウッド業界人達の本音が垣間見れて大変興味深い。みんなが誰を尊敬し、誰が嫌いで、誰が好きか?何に興味があり、何を目指そうとしているのか?色々なことが観客の反応で読み取れる。今回もオープニング・ムービーでマイケル・ムーアが巨大なオリファントに踏みつぶされた時には場内大爆笑だったし、ビリー・クリスタルがしきりにピクサーとディズニーの諍いを引き合いに出して、会場の笑いを誘っていた。
 
 また、ビリー・クリスタルが「オールド・マン・リバー」の替え歌でクリント・イーストウッドを讃えれば、老体に鞭打ってピンク・パンサーばりの体当たりギャグで会場を沸かせたブレーク・エドワーズ監督には、みんな総立ちでその栄誉を讃えた。
 
 ソフィア・コッポラが脚本賞を受賞し、これで親子孫の3代に渡ってアカデミー賞を受賞したことになる。そう言えば従兄弟のニコラス・ケイジもアカデミー賞を獲っていたっけ。ドン・コッポラがアカデミー協会役員のベッドに馬の首を忍ばせたワケではあるまいが、まさにアカデミー賞ファミリー!
 
 今回のアカデミー賞で特に注目を集めた日本人は渡辺謙ではなく、やっぱり「ロスト・イン・トランスレーション」の藤井隆だった。なにしろ作品が紹介される度に、アップで映し出されているから、もはや立派な国際スターの仲間入りだ。
 
 そして極めつけはなんと言っても「ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還」だろう。なにしろノミネートされた作品・監督・編集・脚色・音響・作曲・歌曲・メイキャップ・美術・衣装・視覚効果の11部門を全て受賞したのだからこれは凄い!11部門受賞は「ベンハー」「タイタニック」以来だが、ノミネート完全制覇は史上初の快挙だ。

 作品賞受賞の時は、4人のホビットやガンダルフやアルウェンまでステージに上がり、みんなでこの奇蹟のような作品を讃えた。それはまるで「ロード・オブ・ザ・リング」製作という長い旅路のフィナーレを飾る、夢のような場面だった。

 不可能を可能にしたピーター・ジャクソンは、まさに歴史的偉業を成し遂げた。ピーター・ジャクソンは皮肉を込めて「『ファンタジー』は放送禁止用語じゃないですよね。」とおどけて見せたが、今日はまさにアカデミー協会が「ファンタジー」を認めた、ホントに記念すべき日になったと言えよう。