1月23日「オリビア超特急」パリ→アングレーム
 
 ホテルをチェックアウトしてモンパルナス駅にタクシーで直行と思ったが、渋滞に巻き込まれて余計に時間を食ってしまった。おかげで10時45分発のTGVに危うく乗り損なうところだった。いやホント間一髪でした。しかしこんなことは今回の旅行では日常茶飯事のアクシデントなので我々は少しも気にならない。
 
 何とか座席に着いて辺りを見回すと、前の座席に何やら気になる人物が座っている。うむむむ…。もしや?まさか?彼は6年前にアングレームに行った時に会った…に似ているような気がするが…。しかし前は長髪だったし、白髪も少なかったけれどなぁ。それにこんな偶然なんてあるかい?でも似ているなぁ。それに、隣に座っている女性も何となく彼の彼女に似ているぞ。というわけで、意を決して声を掛けてみる。「もしや、君はオリビアかい?」すると向こうも気が付いて声を掛けてきた。「おお、タモリ!」いや偶然の再会でした。

 彼の名前はオリビア・バティン。フランスのコミックアーチストで、「アクアブルー」というシリーズを長年手がけているけれど、数年前までは友人のフレッド・ブランシャードとスターウォーズのコミックも描いていた。話してみると、最近はSF画選集のディレクションなんかもしているそうだ。それにしても、アングレームに向かう列車の中でもう知り合いに遭遇するなんて、こいつは幸先良いぞ。
 
 オリビアに誘われてラウンジに向かうと、途中で貴田さんと遭遇。そう言えば貴田さんも同じ列車に乗ると言っていたっけ。貴田さんは結局市内のホテルが取れなくて、アングレームから30㎞離れたお城に泊まることになったらしい。そんなわけで、旅行鞄を一端我々の泊まるアパートに置かせて欲しいとのことだ。アパートのマダムはフランス語しか話せないらしいから、貴田さんが一緒にアパートまで来てくれるとこちらも助かる。いや、ホットしました。
 
 アングレームに着くと、アパートのマダムが車で我々を迎えに来てくれていた。貴田さんの連れにマリーさんという日本語ペラペラのフランス女性もいて、みんなで車に乗り込みアパートに向かう。幸い我々の泊まるアパートは駅からだいぶ近い。漫画博覧会の会場もそれ程遠くないし、なにしろ郵便局も近い。こりゃ良い場所が見つかったものだ。
 
 アパートで我々が泊まる部屋は、マダムが仕事に使っている屋根裏部屋を使うことになった。これがなかなか良い雰囲気なので直ぐに気に入ってしまった。仕事も出来るしと、勝川さんも大喜びだ。部屋と入り口の鍵を受け取り、早速みんなで会場に出発する。会場前で貴田さん達と別れ、我々二人は入場券を買って会場に入った。
 
 アングレーム国際漫画フェスティバルは今年で30周年を迎えるフランス最大の漫画祭だ。フランスという国は元々「漫画」に理解のある国で、国のあちこちで漫画祭が開かれているが、規模で言えばアングレームが一番だろう。ヨーロッパの他の国と比べても最大の漫画祭だと思う。なにしろアングレームには常設の漫画美術館まである。期間中には市全体が漫画一色になり、市民がこぞって漫画のお祭りに興じる。日本でも各地で漫画による村興しが行われているが、全てこの街をお手本にしていると言っても良いだろう。
 
 さて今年のアングレームは30周年記念ということで初日からかなりの盛況だ。街のあちこちには大道芸まで出て、道行く人々を楽しませてくれる。いや結構面白い大道芸が出ている。特に裸の男二人による肉体パーフォーマンスは笑える。この寒空にパンツ一丁とは本当に大変そうだ。この大道芸。これから毎日違う出し物が出るそうなので、こちらも目が離せない。
 
 アングレーム国際漫画フェスティバルの特徴は街のあちこちに建てられた特設テントの他に市庁舎や公民館など市の建物が展覧会などの会場に充てられている点で、このため会場が街のあちこちに点在していて、全てを廻るにはかなりの距離を歩かなければならない。その為、会場を一回りする巡回バスが常に運行されている。もちろん乗車はタダなので、自由に乗り降り出来る。この辺り他の漫画祭も一緒だが、アングレーム程市全体が徹底して協力してくれている所は無いかも知れない。
 
 ちなみに例のノストラダムスの1999年の予言に出てくる「アングーモアの大王」とは「アングレーム伯」の事ではないかという説もある。関係ないけどね。とにかく、我々の旅もアングレームに至り、いよいよ盛り上がって来たけれど、果たしてこの後どうなる事やら…?この時恐怖の大王が迫っていたことを、我々はまだ知らなかった。