第九章 最後のクリスマス

「今度の土曜日にうちでクリスマス会をやるけれど、来ない?」 突然、同級生のイマイくんに言われて、ボクはとまどった。なにしろ、〈クリスマス会〉というものを開いたことはもちろん、行ったこともなかったんだ。それに、イマイくんとはあまり遊んだことがなかったから、友達として家に呼ばれることに、ちょっと驚いた。
でも、せっかく呼んでくれたので、行くことにした。イマイくんはクラスでもおとなしい方で、それほど目立ってはいなかったけれど、勉強はよくできたし、やさしい顔立ちなので、クラスでも結構人気があった。だから、ボクは彼のことを〈くん〉づけで呼んでいたんだ。
イマイくんの家は、台場交番よりも北の旧街道沿いで〈今井〉という旅館をやっているんだ。そのあたりは昔、〈歩行新宿(かちしんしゅく)〉と呼ばれていた地域で、商店があまりないせいか、昼でも人通りが少ない。それが、夜ともなると、通りのあちこちに化粧の濃い女の人がたむろして、なんだか気味が悪かった。でも、ちょっと面白い建物があったりするので、ボクは意外と好きな所だ。 まず台場交番から向かって、〈今井〉の手前には旅籠〈吉田〉がある。ここの二階の窓には色ガラスがはめ込まれていて、屋根がまるで虫カゴみたいに見えるところから、〈キリギリス〉と呼ばれていた。
そして、〈今井〉のひとつ手前には、〈さがみホテル〉があるけれど、ここは以前、有名な旅籠〈土蔵相模屋〉だった。なんで土蔵と言うかというと、外壁が土蔵のような海鼠(なまこ)壁だったからだ。この〈土蔵相模屋〉に幕末の頃、高杉晋作や後の伊藤博文、井上馨などの長州藩士たちが集まって、御殿山に建設中の外国公使館を焼き討ちした話が「幕末太陽伝」という映画にもなっているんだ。もちろん、ホリさんに教えてもらったことだけどね。
ところで、いったいだれが〈クリスマス会〉に呼ばれたのだろうか?気になって、それとなくクラスのみんなに訊いてみたら、どうやらクラスで二十人くらいの男子が呼ばれているらしい。その中には、ホリさんやクラさんもいた。でも不思議なことに、女子はワラシひとりだけだったんだ。なぜなんだろう?
ワラシと言えば、昨日の夕方、玉晶堂に古い目覚まし時計を持ってやって来た。なんでも、時計が動かなくなったので直して欲しいのだそうだ。その時計は、四角い箱の真ん中に丸い文字板があって、箱の上には鐘のような形の大きなベルがついている。ボクが使っている目覚まし時計より何倍も大きな置時計だった。それに、箱の周りには複雑な模様の装飾が彫られていて、かなり凝った作りなんだ。

それを見たシゲオさんも、かなり珍しい時計だと驚いていたけど、なんとか修理できるだろうと、土曜日まで預かることにしたんだ。
でも、預かったのは良いけれど、中を調べてみて、歯車がいくつか壊れていることがわかった。それに、国産だと思っていたら外国製で、国産の歯車では合うものが無かったんだ。そこで仕方なしに、シゲオさんが改めて歯車を作り直すことになったけれど、土曜日までに直るんだろうか?ワラシが待っているのに、間に合うかどうか、ボクは不安で仕方がなかった。
そんなボクの心配をよそに、ワラシはなんだか最近浮き浮きしているみたいだ。もちろん、土曜日に預けた時計が直ってくることもあるけれど、それ以上に、クリスマス会に呼ばれたことがよほど嬉しかったらしい。
ともかく、不安な毎日が過ぎてゆき、とうとう土曜日が来てしまった。
土曜の朝は学校で終業式があった。明日から冬休みなのでクラスのみんなは浮かれていたけれど、ボクは朝から憂鬱だった。だって、肝心の時計がまだ直っていないんだ。
シゲオさんに訊くと、大丈夫だから安心して待つようにと言うし、お父さんも「父さんに任せておけ」と、奇妙な笑顔を浮かべるだけなんだ。
でも、作業台の上の時計はバラバラに分解されたままで、どうにも完成にはほど遠いように見える。
思わずボクが文句を言おうとしたら、横からお母さんが口を挟んだ。
「イサオ、今日はイマイ君の家でクリスマス会があるんでしょ?」
それを聞いて、ボクはハッとした。そうだった。クリスマス会は午後3時からあるんだっけ。
時計を見ると、もう2時を回っているじゃないか。
それで、ワラシの時計のことも心配だけど、仕方なしにボクはクリスマス会にでかけることにしたんだ。
でも、会にはワラシもやって来るし、時計のことを訊かれたらなんて答えたらいいんだろう?そんな不安をもったままなので、ボクの足どりは重かった。
そしたら、背後からペタン♪ペタン♪と、聞き覚えのある足音が近づいてきた。後ろを振り向くと、ワラシだった。
「ねえ、イマイくんの家は、このままずっと行けばいいのよね?」ワラシが尋ねててきた。そうか、ワラシはイマイくんの家を知らなかったんだ。
「そうだよ。ボクについてくれば大丈夫だよ」
時計のことを訊かれなくてホッとしたのか、思わず口がすべってしまった。
おかげで、イマイくんの家まで、ワラシと一緒に行くことになった。でも、時計のことをいつ訊かれるのかと、内心ハラハラしていたんだ。
ボクの家から旧街道を北にまっすぐ進んでいくと、まず右に陣屋横町があり、その先の左に北馬場通りがあって、それを過ぎてすぐ右には聖蹟公園がある。
この聖蹟公園は明治天皇が江戸に移った時、江戸に入る前に一泊した場所で、それを記念して作られた公園なのだそうだ。
それほど広くはないけれど、園内には広場とそれを取り囲むように木が生い茂り、広場の手前には公会堂も建っていた。この公会堂では歌の教室が開かれていて、ボクも参加したことがあるけれど、時々合唱団の発表会も公開しているんだ。今日はクリスマス・イブだし、何かやっているんじゃないかと公園の入り口をチラリと覗いたら、クリスマス合唱会のポスターが貼ってあった。
ワラシも気がついて、「ちょっと聞きたいね」なんて言ってたけど、ボクは知らないそぶりで、そのまま通り過ぎた。
しばらく歩いて台場交番を過ぎると、〈歩行新宿(かちしんしゅく)〉に入る。このあたりに来ると、商店も少ないせいか、昼間でも人通りが少なくて閑散としている。
ワラシが周りをキョロキョロ見ながら、不思議そうに訊いた。
「イマイくんの家って、この辺なの?」
「そうだよ。ほら、あの家がそうさ」ボクが指さした。
イマイくんの家は、〈さがみホテル〉の先にある、外壁がタイル貼りで、銭湯みたいな感じの建物だ。
でも、玄関からガラス越しに覗くと、中は真っ暗だった。
「あれっ、休みなのかな?」
ボクが怪訝な顔で覗いていると、いきなり玄関の戸が開いた。
「いらっしゃいませ」
いきなり怪しいお婆さんが戸口に現れたので、ボクは思わずのけぞった。
「あ、あの…」
ボクが声を震わせていると、後ろからワラシが顔を出して、元気な声で言った。
「イマイくんのクリスマス会に呼ばれてきました」
「お嬢ちゃん、あんたも来たのかい?」
お婆さんが驚いたような顔をしてきいた。
「はい、わたしも呼ばれたんです」
ワラシがそう答えると、お婆さんが深々とお辞儀した。
「そうかい、そうかい。ありがたいことです」
「この人、なに言ってるんだろうね?」
ワラシが戸惑った様子で、ボクの方を振り返った。
「さあ、感謝しているみたいだけど…」
ボクもちょっと変だとは思ったけれど、お婆さんが中で手招きしているので、さっさと玄関をくぐった。
「君もおいでよ」
ボクに誘われて、ワラシも続いた。

中にはいると、天井にある照明がひとつ点いているだけで、あたりは薄暗かった。よく見ると、正面に段差があって、段差を上がると板張りの廊下が奥まで続いていた。廊下の右側には障子戸がならんでいて、正面左には階段があった。まるで、ワラシの住んでいる朝日楼みたいな構造だ。ワラシもそう思ったのだろう。思わず、ワラシが土足で段差を上がろうとしたので、お婆さんが慌てて注意した。
「こら、土足で上がる人がいるか!」
ワラシもハッと気がついて、足を止めた。
「あっ、すまねぁー!」
と思わずお国訛りが出て、ワラシは恥ずかしそうに俯いた。
すると、お婆さんが言ったんだ。
「そったなこど、はずかしがらねぁーでいいよ。私も訛ってらがらね」
お婆さんの意外な出身がわかって、ホッとしたのだろう。ワラシがまた笑顔に戻ったので、ボクもホッとした。
「じゃあ、こっちへおいで」
お婆さんに促されて、ボクらはあとについて行った。一階の暗い廊下を奥まで行って、そこだけ明るい障子戸の前に案内された。
「お友達がいらっしゃいましたよ」そう言って、お婆さんが障子戸を開いた。
中を覗いて驚いた。広い畳の部屋の中央に縦長のテーブルが一列に並べられていて、その奥にあるテレビを背に、イマイくんとクラさんとホリさんの三人だけが座っていたんだ。テーブルの周りには二十枚近くの座布団が置かれていたけど、誰も座る者がいなくてガランとしていた。
「あれっ、ほかの友達は?」ボクが訊くと、気まずそうなイマイくんに代わって、ホリさんが口を開いた。
「なんだか急に来られなくなったそうだよ」
「へえ、そうなの…?」
ボクが怪訝な顔つきをすると、すぐさまクラさんが付け加えた。「ほら、今日はクリスマス・イブだから、みんな色々と忙しいんだよ」
それでも納得できずに、ボクが「でも、変じゃ…」と言いかけると、慌てて今居くんが口を挟んだ。
「まあ、そういうことだから、ボクらだけでクリスマス会をやるね」
そんなわけで、ボクら六人でクリスマス会を始めることになったんだ。
ボクらが座ると、すぐに後ろの障子戸が開いて、女の人が料理を運んできた。でも、二十人来るところに五人しか集まらなかったら、料理が余ってしまうんじゃないの?
…と心配したけれど、ちゃんと人数分だけお皿が運ばれてきたので、取り越し苦労だった。だけど、気のせいか一人分の料理の量が多かったので、全部食べたらお腹がいっぱいになってしまった。

食事が終わると、イマイくんがトランプ遊びをしたいと言い出したので、みんなでババ抜きをして遊んだ。でも、ババ抜きが苦手のボクは、どうしても最後までババをつかまされてしまうんだ。それで二回やって、二回ともボクの負けになってしまった。
それが終わると、今度はワラシがテレビを観たいと言い出した。まだテレビのある家は少なかったし、ワラシの観たい気持ちもよくわかる。それに、ちょうど夕方から「キングコング」の映画を放送していたので、ボクらは喜んでテレビを観ることにしたんだ。
ワラシなんかはテレビにかじりついて、食い入るように画面を見つめていたけど、時々「わあ!」とか「きゃーっ!」とか悲鳴を上げて、ボクらを驚かせた。おかげで、テレビ放送が終わった時は、全員ぐったり疲れ切ってしまった。
それから、イマイくんの合図でケーキが運ばれてきた。それも、丸いホールケーキだ。ボクもケーキは食べたことはあるけれど、こんなに大きなケーキは見たことがなかった。
どうやって食べたらいいのか、ボクらが戸惑っていると、お婆さんが包丁を持って現れて、みんなの分をひとつひとつ切り分けてくれた。
食べてみて、驚いた。今までこんなに美味しいケーキは食べたことがない。さすが、旅館をやっているだけあって、イマイくんの家は違うなあと思った。とにかくケーキの上に乗っているクリームからして、違っているんだ。今日来なかった子たちは、これが食べられなくて残念だったねと、自慢したくなるくらいだった。
そして、時計が七時を回ったところで、クリスマス会は終わりを迎え、最後にイマイくんから挨拶があった。
「みんな、今日はどうもありがとう」
深々と頭を下げて、イマイくんがつぎに奇妙なことを言ったんだ。
「みんなも知っているとおり、来年は1961年だね。この1961という数字は逆さにしても同じ1961になるんだ。だから、来年以降も変わらず、ずっと友達でいようね」
最初、冗談を言っているのかと思った。でも、イマイくんの真剣な眼差しから、本人はいたって真面目だとわかる。なんて応えようか、戸惑っていると、真っ先にホリさんが口を開いた。
「そんなの、決まってるじゃないか」
一瞬で場が和み、笑いが起こった。こんな時、やっぱりホリさんは頼りになる。
それから、イマイくんが玄関までみんなを送ってくれて、ひとりひとりにお辞儀をして、お別れを言った。だけど、あんまり丁寧なのが気になった。


それで帰り道、ボクはホリさんに尋ねたんだ。
「なんか、イマイくんの様子が変じゃない?」
「そうよ。まるで、もう会えないみたいじゃない?」
ワラシも首を傾げた。
すると、ホリさんがおもむろに口を開いた。
「イマイくんはもうすぐ転校するんだ」

「えっ?」ボクとワラシが同時に声を上げた。「それって、どういうことなの?」
「聞いた話では、来年あそこを閉めて、どこかに引っ越すらしいよ」
そんなこと一言も、イマイくんは言わなかったけれど、ホリさんの言うとおりだとすれば、すべて合点がいく。
「そういえば、旅館なのにお客が全然いなかったね」
ボクがそう言うと、ホリさんが急に怪訝な顔つきになった。
「あそこはもともと旅館じゃないよ。貸座敷なんだよ」
「えっ、そうなの?」ボクは目を丸くした。
「そうさ。だから誘った友達が来なかったんだよ」クラさんが付け加えた。「それに、この辺りは貸座敷だらけだろ。だから親が心配して、来させなかったんだろうね」
ボクは頭が混乱してしまった。イマイくんの家が貸座敷だったことはわかったけれど、〈吉田〉も〈さがみホテル〉もみんな貸座敷だったなんて、全然知らなかった。それにしても、なんでイマイくんの家に行っちゃダメなんだろうか?貸座敷って、女の人がたくさんいて、お客をもてなす場所だと思っていたけれど、それって、やっぱり子供が行っちゃいけない場所なんだろうか?
ボクがあれこれ考えを巡らせていると、どこからか女の人たちの歌声が聞こえてきた。気がつくと、聖跡公園の公会堂の前だった。歌声は、公会堂からもれていた。そう言えば、今日は公会堂でクリスマス合唱会があったんだっけ。クリスマスを祝う聖歌だろうか?何の歌かは知らないけれど、まるで貸座敷の女の人たちを歌っているように聞こえて、なんだかいたたまれない気持ちになった。
そして、ボクは思ったんだ。もうイマイくんの家でクリスマスを祝うことはない。だから今日は、イマイくんとボクらで祝う最後のクリスマスだったんだってね。
聖跡公園を過ぎると、クラさんとホリさんがボクらに別れを告げて、陣屋横町に去っていった。
そして、品川劇場の前にさしかかった時、ふいにワラシが言ったんだ。
「帰りに玉晶堂に寄って、時計を受け取るわね」
しまった。ワラシの時計のことをすっかり忘れていた。時計は無事に直ったのだろうか?
店に行ってみると、ボクが心配したとおり、時計は直っていなかった。
ワラシも期待していたんだろう。かなり残念そうな顔をしている。 あれほど任せておけと言っておきながら、やっぱりダメだたったなんて無責任だなあと、ボクがにらむと、お父さんがワラシに頭を下げた。
「修理が間に合わなくてごめんね」
そして、きれいに包装した箱をワラシに差し出して言ったんだ。「でも、目覚まし時計がないと困るだろうから、修理が終わるまで、これを使ってくれないかい?」
「えっ、これは?」

「私からのプレゼントだよ」お父さんがニコニコしながら言った。「イサオの友達を失望させるわけにはいかないからね」
「で、でも…」
ワラシがまだ戸惑っている様子なので、すかさずボクが言った。「今日はクリスマスだし、サンタからのプレゼントだと思って、もらっておきなよ」
「そ、そうね…」
ようやくワラシがうなずいた。
早速包装を開けてみると、真新しい目覚まし時計が出てきた。文字盤にネズミの絵が描いてある、女の子に人気の時計だ。
「うわっ、ありがとう」ワラシの顔がパッと明るくなった。
「ほんとに良いの?」ワラシが念を押した。
「もちろんだよ」お父さんが胸を張った。「玉晶堂の名にかけて本当だよ」
そうか、そういうことだったのか。ワラシの笑顔を見て、ボクはすっかりお父さんを見直した。
それからボクは、ワラシを店先まで見送った。ワラシは、よほど気に入ったのだろうか、ネズミの絵の目覚まし時計を大事そうに抱えながら、ボクにお辞儀した。そして、思い出したように言ったんだ。
「そう言えば、イマイくんのことだけど、ホントはクラスの女子たちも誘ったのよ。でも貸座敷には行きたくないって、みんなに断られたらしいわ」
「でも、きみは断らなかったんだね」
「だって、わたしは貸座敷に住んでいるんだもの」
そう言って笑うと、ワラシは朝日楼に走り去った。

注)これは事実を元に脚色を加えた物語です。なるべく当時を再現するよう努めましたが、なにぶん昔のことですので記憶違いや思い込みもあるでしょうし、記憶も断片的ですので、時間や場所など事実と異なる点もあるかと思います。また、プライバシーを考慮して、登場人物や人名などはあえて変えてあります。
【お台場少年うんちく集】

(22)聖蹟公園って、どんな公園?

品川宿は東海道で江戸から最初の宿場町で、参勤交代の大名や勅使たちが必ずここで休息または宿泊しましたが、その宿を本陣と呼んでいました。江戸時代前期には「北品川宿」と「南品川宿」のそれぞれに本陣がありましたが、江戸後期になると「北品川宿」だけになりました。
明治元年に明治天皇が江戸に行幸された際も、品川宿の本陣に宿泊されることになりましたが、地元の名士たちは宿泊所の選定に悩んで、結局鳥山邸跡に仮の行在所を設けることで落着しました。
昭和になり、日本初の盲目の衆議院議員高木正年氏がこの行在所を聖地として保存しようと働きかけ、調査したところ、この場所には品川宿の貸座敷で働く女性たちの性病を検査する警視庁品川病院が建っていることがわかりました。
そこで、病院を移転して、土地を鳥山氏からもらい受け、ようやく昭和13年11月に「聖蹟公園」として開園しました。

聖蹟公園入口 公会堂跡 聖蹟公園由来の碑 聖蹟公園内
(23)「幕末太陽伝」って、どんな映画?

「幕末太陽伝」は日活製作再開三周年記念として1957年に公開された、川島雄三監督の異色喜劇映画で、主役のフランキー堺ほか、「太陽の季節」で一世を風靡した石原裕次郎も高杉晋作役で出演しています。
落語の「居残り佐平次」からとったと思われる主人公が、口八丁手八丁で品川宿の土蔵相模屋に居候を決め込み、そこに屯する幕末の太陽族たち、高杉晋作や志道聞多(【しじ もんた】のちの井上馨)や伊藤春輔(【いとう しゅんすけ】のちの伊藤博文)らの御殿山英国公使館の焼打ち計画とも絡んで、「品川心中」(品川の海は遠浅なので心中は不可能!)「お見立て」「三枚起請(さんまいきしょう)」など花街や花魁(おいらん)のエピソードも同時進行する中、図太く生き抜いていく姿を描いています。
冒頭に現代(1957年当時)の北品川の風景が映し出されますが、まず八ツ山橋から歩行新宿。次に品川橋から北品川商店街を臨み、再び歩行新宿に戻って、〈さがみホテル〉が紹介されますが、その隣に〈今井〉の看板もちゃんと映っています。
ちなみに、この映画には幻のラストシーンがあり、主役の佐平次が墓場から去っていくと、スタジオのセットになり、スタジオの扉を開けると、冒頭に映し出された現代(1957年当時)の北品川の街並みが広がり、なぜか現代の服装をした登場人物たちが点在する中を、ひとりちょんまげ姿の佐平次が走り抜けて行くというものでした。
残念ながら、あまりにも斬新過ぎるという理由から、スタッフ、キャストたちから反対されて、このラストシーンは没になってしまいましたが、もし採用されていれば、「お台場少年」の舞台となっている、当時の北品川の街並みを見ることができたかもしれません。