第三章 ねずみの王様

「フロムおじさん、たいへんよ!」小鳥が大声でフロムを呼びました。

「ホウホウホウ、なにをあわてておる?」ねむそうに、フロムがあなから顔を出しました。

「さっきから、木の下のしげみでキツネがねらっているのよ!」

「なに?この老いぼれフクロウをか?」

フロムがそっと木の下をのぞいてみると、下のしげみのなかから、一匹のキツネがじっとこちらをうかがっています。

「ホウ、キツネのコンタじゃないか」

「えっ、知ってるの?」

「ホウ、知っとるとも。あのキツネ、しっぽがないだろう。あれにはふかいわけがあっての…」
そういって、フロムは「ネズミの王さま」の話をはじめました。

むかしのことです。ある日突然、フロムの森に土でできたお城があらわれました。
朝起きたら、こんなものが建っていたのですから、それはみんな驚きました。森からニョキッと頭を出したお城を見て、うさぎはあなにもぐりこみ、鳥たちはかん高い声で騒ぎ立てました。
それにしても、いったいだれがこんなお城をつくったのでしょう?森の動物たちがお城の周りに集まってうわさしていると、いきなりお城の門が開いて、中から王冠をかぶり、ローブをまとったネズミがあらわれました。

「みなのもの!余はネズミの王である。余はこの森がおおいに気に入った。よって、これよりこの森を『ネズミの森』と命名し、余が治めることにする!」

ネズミの王さまがそういうやいなや、お城のなかからネズミの大群がドドドッとあふれ出てきました。
なにしろネズミの王さまには100万匹の部下がいたから、もうたいへんです。あっという間に森の中はどこもかしこもネズミだらけになってしまいました。ネズミたちは森じゅうの木の実をたべるわ、木の根っこをかじるわで、おおさわぎです。
おかげで、森の木はつぎつぎに枯れはじめ、鳥たちはすみかをうしない、動物たちも食べ物がなくなってしまいました。
これはどうにかしなくてはと、森の動物たちが集まって会議を開きました。クマやイタチが力ずくでおいはらおうといいますが、100万匹のネズミがあいてではどうすることもできません。さんざん話しあったのですが、けっきょくいい考えもでず、みんな頭をかかえて、こまりはててしまいました。すると、フロムが前にでていいました。

「わしに良い考えがある。どうか、わしにまかせてくれないか」

物知りのフロムのいうことです。それに、ほかに良い考えがないので、みんなは彼にまかせることにしました。

そこで、フロムはさっそく南の山をこえて、ガートの森にいきました。ガートの森には古いお城があり、そこにはたくさんののら猫たちがすみついているのです。
フロムはお城の中にはいると、ネコたちにおそるおそるたずねました。

「ネコの王様はどこですか?」

すると奥の部屋から、ひときわ大きな黒ネコがあらわれました。

「これはこれは、ネコの館にたった一羽でやってくるとは、命知らずの鳥だのお」

「わしのような老いぼれを食べてもまずいだけですよ」フロムがふるえながらいいました。「それより、わしの森にくれば、もっとおいしいごちそうが、いくらでもたべられますのに」

「なに、ごちそうが?いくらでもだと?」ネコの王さまが舌なめずりをしながら、身を乗り出しました。

「じつは、わしどもの森にネズミの王が引っ越しして来まして、森じゅうネズミだらけになって困っております。それで、ぜひネコの王であるあなた様に、ネズミどもをたいじ…いや、お食事していただきたく、ご招待にまいったというわけなのです」

「ふふふ、それはうまそうな話ではないか」そういって、ネコの王さまがわらいました。
こうして、フロムの誘いに乗って、ネコの王さまたちがフロムの森にやってきました。ネコたちはよほどお腹をすかせていたのでしょう。森に着くやいなや、さっそくネズミをとらえ始めました。そして、ネズミの王さまのお城を攻め落とすと、またたくまに森中のネズミを平らげてしまったのです。

これで、ようやく森に平和がおとずれたと、森のみんなが安心したのもつかの間。今度はネコの王さまがお城に居すわり、部下たちが森の鳥たちをおそい始めました。
そこで、困った鳥たちが集まって、ネコを追い出す方法を話し合いました。でも、ピーチク、パーチクと、鳴きさわぐだけで、いっこうに話がすすみません。
とうとう鳴きつかれて、みんながだまりこんでいると、キツネのコンタがあらわれていいました。

「オレに良い考えがある。オレにまかせておけ!」

コンタは悪知恵がはたらくので、ふだんから嫌われていましたが、ほかに良い考えもうかびません。鳥たちはワラをもつかむ思いで、コンタにまかせることにしました。
そこで、コンタは森を抜けると、三日月山を越えて、オンブレの森に向かいました。オンブレの森のはずれには大きなお城があり、人間の王さまがすんでいるのです。人間の王さまは、ときどき遊びで「キツネ狩り」をすることを、コンタは知っていました。そして、今日がその「キツネ狩り」の日だったのです。
コンタがお城の前にくると、急にラッパが鳴って、大勢の馬に乗った人間たちと、たくさんの犬たちがコンタを追いかけ始めました。

コンタは犬たちにつかまるまいと、全速力で逃げました。オンブレの森を走りぬけ、森の外にでましたが、犬たちは追い続けます。そして三日月山を越えましたが、犬たちはまだあきらめません。とうとう、コンタは犬たちをひきつれて、フロムの森までやってきました。
フロムの森に入ったコンタは、まっすぐネコの王さまのお城にむかい、お城の中ににげこみました。それに続いて犬たちが大勢やってきたものですから、ネコたちは大騒ぎです。ギャーギャーわめきながら、クモの子を散らすように、みんな森から逃げ去ってしまいました。おかげで、森の鳥たちはネコたちからすくわれたのです。
一方、お城ににげこんだコンタは、大広間まではいけたのですが、その先のドアがどれも小さかったので、からだがドアにはさまって、みうごきがとれなくなってしまいました。
そして、犬のあとからやってきた人間たちにつかまって、「キツネ狩り」の戦利品として、しっぽを切りとられてしまったのでした。
だから、きつねのコンタにはしっぽがないのです。

「じゃあ、コンタさんには感謝しなくちゃね」小鳥がいいました。

「だが、コンタは悪知恵がはたらくヤツだからのお。ネコに鳥を獲られたくなかっただけかも知れんぞ」

「そうかなあ?」小鳥が首をひねりました。
「おい、コンタ!」フロムが茂みの中にいるコンタに呼びかけました。「おまえ、さっきからこの木に集まる小鳥たちをねらっているんだろう?」
すると、コンタが頭を横に振りながら鳴きました。

「ノン!]

【フロムの豆知識】

「キツネ狩り」は、21世紀はじめまでイギリスの貴族たちのあいだで流行っていたスポーツです。まず、キツネの巣穴をふさいでおいて、キツネを猟犬たちが追い立てます。そして、その後を馬に乗った貴族たちが追いかけて、キツネを狩るのです。そして狩られたキツネは、しっぽを戦利品として切り取られました。