OCTOBER 2009
Diary

10月10日「ATOM」

 109シネマズ・グランベリーモールへ「ATOM」を観に行きました。ここでは吹き替え版しかやっていないし、スクリーンも小さいけれど、今日は109シネマズの日ということで1000円で観られるのです。
 
 今回のフルCGアニメ版「アトム」はアメリカの市場を意識した作りなので、原作よりも少しアトムの年齢を上げています。プレスで紹介されたアトムの顔も間延びしていて、巷ではコバルトみたいだと結構不評でした。おかげで初日だというのに半分の入りです。観る前から、大丈夫かなあと不安が募るのですが、果たして出来は如何だったでしょうか?
 
 空中都市「メトロシティ」の天才科学者テンマ(天馬)博士にはトビーという一人息子がいました。彼は父親同様、頭脳明晰で好奇心旺盛な少年です。でもある日、父親の実験現場に潜入したトビーは、そこで事故に遭ってしまうのでした…。
 
 私が観たのは日本語吹き替え版でしたが、アトムの声の上戸彩やテンマ(天馬)博士の役所広司も適役で非常に上手く演っていたと思います。他にテンマ博士の助手に手塚治虫似のキャラが出て来るのですが、その声を手塚真が演っていて、これが本人にソックリでビックリしました。また、米国版「アストロボーイ」ではアトムの声をフレディ・ハイモア、テンマ博士の声をニコラス・ケイジが演っているそうですが、それぞれの顔がどことなく各キャラに似ています。米国版では他にもサミュエル・L・ジャクソンとか、シャリーズ・セロン、「ヴェロニカ・マーズ」のクリステン・ベルなんかも声を当てていて、ホントに豪華です。是非とも字幕版も観たいと思うのですが、公開している映画館が少ないので困ります。
 
 確かにアトムの顔は原作よりもやや年上で、原作ファンとしては不満も残ります。でも、実際の動いている画面を観ると、それ程違和感はありませんでした。むしろ、原作に近づけようという製作者側の努力が見てとれます。例えば、大人達の中にあってはそれ程は感じないのですが、子供達の中にいると、アトムの頭身だけが幼児のように小さいのです。おかげで、妙にアトムの頭が大きく、まるで着ぐるみをかぶっているみたいに見えてしまうのです。原作でも他の子供と比べてアトムの顔だけ大きかったのですが、平面の絵ではそれ程感じなかった不釣り合いがCGの立体的な造形では顕著に感じられました。
 
 シナリオ的には不備な点もあります。例えば、天馬博士がアトムを拒絶するに至るまでの過程や、それに対するアトムの心の葛藤など描写が不足しているので、アトムが家出する件でどうしても唐突な感じがしてしまいます。その辺り、ピクサーなんか、細かいシークエンスをたたみ掛けて否が応でも観客の気持ちを誘導することに長けているなあと感心します。
 
 また、アトムの動力源としてさすがに原子力は使えないので、新しいクリーンエネルギー「ブルーコア」と「レッドコア」を編み出したのは良いのですが、このエネルギーの説明が足りないので、最後の決断等どうしても腑に落ちない点が残りました。嘘でも良いので、誰にでも分かるような簡単な理屈が欲しかったと思います。
 
 脚本監督のデビッド・バワーズは手塚ファンだそうですが、映画を観る限り嘘偽りはないようです。全編を通じて、原作に対するリスペクトが感じられました。米国市場を狙っているので映画オリジナルキャラも沢山出てきますが、天馬博士やお茶の水博士はもちろん、ヒゲ親父にハムエッグ、ヒョウタンツギも出てきます。劇中登場するロボットや建物なども、手塚漫画らしい丸みを帯びたデザインに統一されていて、手塚イズムはちゃんと継承されていると思います。
 
 総じて、色々と不備はありますが、ハリウッド映画化された日本の漫画作品としては充分満足のいく出来だと思います。「AI」や「ウォーリー」、「スターウォーズ」などの影響が見られますが、元を質せば全部「鉄腕アトム」が本家本元なんですね。原作が生み出されてから半世紀以上も経って、手塚治虫の夢がアメリカ人の手によってようやく結実したと思うと、感慨深いものがあります。手塚先生もさぞや天国で喜んでいらっしゃることでしょう。
 
 因みに、エンドクレジットが流れたら、途中で席を立たないようにしましょう。感涙の○○を逃しますので…。
 
 ☆☆☆☆★★★★