NOVEMBER 2007
Diary

 11月4日 「革新的道具」

 その昔、石ノ森章太郎さんの「漫画家入門」を読んでスクリーン・トーンの存在を知りました。あの編み目の点々や平行線は手描きだと思っていたのに、実はスクリーン・トーンを貼っていただけだなんて、そりゃビックリ仰天です。早速近所の文房具屋にスクリーン・トーンを買いに行きましたが、そんな珍しい物があるワケもなく、店主に聞いても、「そんな物聞いたこともない」と言われる始末。さて、一体何処に行ったら手に入るだろうかとあれこれ考えて、日本一の百貨店三越にならあるに違いないと思いつき、はるばる日本橋まで出かけたのでした。もちろん当時、銀座に伊東屋があるなんて知る由もなく、真向かいに丸善があるなんて事も気がつかず、ともかく三越に直行して、ようやくスクリーン・トーンなる物を手に入れることが出来ました。
 
 こうして苦労の末入手したスクリーン・トーンですが、実際使ってみるとこれがホントに便利な物で、あっという間に空白が埋まってしまうのには、人類が火を手に入れた如く感動しました。それに、貼るだけで絵が様になるんですから、なんか上手くなったような錯覚を覚えてしまうんですね。初期のスクリーン・トーンは裏側(粘着部)に印刷されていたので「削り」とかは出来ないんですが、それでも「重ね貼り」とか色々試して、しばらく熱中して使い込んだものです。
 
 でも、それも遠い昔の話。今やデジタル画材の時代です。私もその波に乗って、遅ればせながら今年の春から本格的にphotoshopを使い始めてみました。まあ、photoshopはこれまでもお遊び程度に結構使ってきたソフトですが、本格的に使い始めてみて、ようやくその凄さが分かり始めました。こりゃ、もうスクリーン・トーンなんて比じゃありません。絵を描ける人がこの道具を手に入れたら、もはや「鬼に金棒」どころか「鬼に核弾頭ミサイル」です。
 
 そんなわけで、今年はずっとphotoshopに掛かりっきりでした。photoshopは本来、その名の通り写真を編集、加工する為のソフトですから、純粋に絵を描くという思想で作られてはいません。ですから、絵を描く道具としては、少々使いづらい設計になっています。しかも、後から色々機能を足したせいでしょうか、おかしな所にとんでもない機能が隠されていたりします。丁度、隠れアイテムやボーナス・イベントを探すような感じで、この「ゲーム感覚」が私を夢中にさせたのでした。
 
 なにしろゲーム感覚で絵を描きますから、私はかなり異常なことを試みています。一枚の絵にレイヤー延べ2000枚!なんてバカなこともしています。バカですねえ、ホント。もちろん、こんな絵を描けるようになったのは、それを発表できる媒体が生まれたということが大きな要因です。従来のアナログ雑誌ではフルカラー印刷する事自体が難しかったのですから、デジタル・メディアの登場は、描き手にとって大きなチャンスでもあり、より自由な表現世界を与えられたという意味で、実に喜ばしいことだと思います。いやあ、無限の可能性にワクワクしますね。