MARCH 2007
Diary

3月1日「リトル・ミス・サンシャイン」
 3月1日は映画の日なので、無理矢理映画館に行きました。こうなると、もはや苦行のようです。今回のお題は「リトル・ミス・サンシャイン」と「ドリームガールズ」です。どちらもアカデミー賞にノミネートされた作品です。「ドリームガールズ」はモータウン・ミュージックが好きな人には至福の映画です。エディ・マーフィが素晴らしいです。それ以上はなにも言うことはありません。ここでは、もうひとつの作品についてだけ紹介します。

「リトル・ミス・サンシャイン」
 わたしは映画を観る時、観客の立場から観ると同時に、作り手の立場からも観てしまうので、作品の色々な部分に目が行ってしまいます。例えばセットの作りとか、カメラやマイクや照明の位置とか、エキストラの目線だとか、話に全然関係ないところも気になってしまうのです。もちろんお話にしても、そのまま楽しむことができず、自分でシナリオの先を勝手に組み立てるクセがあります。当然、話の先を常に何通りも予測しながら観てしまいます。ですから、自分の予測通りだったり、それ以下だったりすると、なかなか満足できません。

 そうやって作品の技量を量るワケですが、年に何本か、わたしの予想を超える素晴らしい作品に出くわすことがあります。この作品がまさにそうで、このシナリオにはまいりました。お話やセリフにまったく無駄が無く、実に見事な出来映えです。制作に何年も費やし、シナリオに惚れ込んだ監督の情熱でようやく完成に漕ぎつけた作品と聞いて、成る程と納得しました。有名スターが誰ひとり出ていない、ホントに低予算の小品ですが、作品の完成度から言ったら、この映画にアカデミー作品賞をやっても良かったんじゃないかと思います。

 わたしはかねがね「勝ち組」「負け組」なんていう分け方に大変疑問を感じていたのですが、この作品に登場する家族はまさに「負け組」そのものです。家庭崩壊、破産寸前、自殺未遂、麻薬中毒、性格破綻、肥満、ゲイなど、ありとあらゆる要素が詰まった社会的落伍者の吹きだまりのような家族が、ふとしたきっかけでオンボロ車に乗り、「リトル・ミス・サンシャイン」を目指して旅をするロード・ムービーです。設定からして、何だか楽しいですね。
 
 「リトル・ミス・サンシャイン」というのは、ジョンベネちゃんの事件で日本でも注目された、少女版ミス・コンの大会の名前です。主人公たち家族の娘が、ひょんなことでこの大会に参加することになったのですが、このちょっと太めでメガネを掛けた娘を演じるのが、ポスト・ダコタ・ファニングと言われるアビゲイル・ブレスリンです。この作品でアカデミー助演女優賞にノミネートされましたが、なかなかの怪演を見せてくれます。大きくなったら、結構な性格俳優に育ちそうで、今後の活躍が楽しみです。
 
 この他、作品に登場する俳優は、ひと癖もふた癖もある性格俳優揃いで、これらの登場人物がうまく絡んで、絶妙のアンサンブルを奏でています。このシナリオの妙、日本映画も見習って欲しいですね。日本映画では、それぞれのキャラがバラバラになって、何一つ噛み合っていないという作品が実に多いですから。
 
 さてこの家族、どうあがいたって成功者にはほど遠いです。こんな家族に未来はあるのでしょうか?世間に1割の「勝ち組」と9割の「負け組」がいるとしたら、この映画はまさに9割の人々のための物語です。今に絶望し、明日を見失っている、そんなあなたこそ、この映画を観ましょう。嘘のサクセス・ストーリーに振り回されて、自暴自棄になっているあなた!この映画に、ささやかな光を見出してください。ラストはきっと涙が止まりませんよ。きっと、アメリカの劇場では歓声が上がったことでしょう。
 
 余談ですが、「リトル・ミス・サンシャイン」の会場で、娘を会場にエスコートする係員は「24」のクロエですよ。ついでに言えば、本物のミス・アメリカも出ています。
 
 ☆☆☆☆☆★★★★★