AUGUST 2006
Diary

8月1日「ゲドVSブレイブ」
 映画の日ですので、久しぶりにワーナー・マイカル新百合ヶ丘へ映画を観に行きました。今回はこの夏話題のアニメ二本立てです。ホントは「時をかける少女」を観たかったのですが、上映館があまりに少なくて都合が付きませんでした。残念ですが、作品の評判が良いので、もしかしたら上映館数が増えるかも知れないという淡い期待に賭けましょう。
「ハリポタ」や「指輪」や「ナルニア」などファンタジー映画のヒットを受けて、あろうことか今年の夏はファンタジー・アニメ大作が同時期に二本も公開されるという珍事が起きました。それも、よりによって「ゲド戦記」ですからね。嬉しいやら、悲しいやら、困ったものです。
さて、その出来は如何だったでしょうか?

「ゲド戦記」
 前回のジブリ作品「ハウルの動く城」を酷評した私ですが、今回は内心少し期待していました。どんな事情かは分かりませんが、監督が息子の吾朗氏に変わりましたので、いくらなんでも同じ過ちはしまいと思ったわけです。たしかにある意味「ハウル…」よりは良かったです。
 
 これまでも原作を改変する事はよくありましたが、時間の限られた映画という性格上、ある程度の改変は致し方ないことです。少なくともひとつの作品として話がまとまっていて、原作者が伝えたい主題なりメッセージがちゃんと込められていて、より面白くなっていれば、それなりに許されると思います。前回の「ハウル…」はたしかに映像としての面白さはありましたが、前二つの条件に関しては完全に欠落していました。《原作を大切にしないヤツは嫌いだ!》
 
 恐らく制作スタッフの中にもそのことに対する不満があったのではないでしょうか?今回の「ゲド戦記」には前二つの条件を満たそうという努力の跡が見られます。でも、残念ながらそれを表現する能力が圧倒的に足りませんでした。伝えるべきメッセージの伝え方を知らず、すべてセリフに頼り、それでいて観客に必要な情報も与えられないという、ごく初歩的なミスを犯しています。その上、これまでのジブリ作品に見られたような、目を見張る動画シーンもありません。おかげで極めて冗漫な作品になり、観客は二時間睡魔と戦うハメになってしまいました。《観客を大切にしないヤツは嫌いだ!》
 
 また、全体的に実にこぢんまりした、非常に地味な作品という印象を受けます。世界的な広がりが表現されていないので、世界の均衡が崩れると言っても、どうもピンと来ません。だいたい城の兵士が十人程度しかいないというのも寂しすぎます。これではさすがに敵の強さも表現できません。ウソでも兵士は百倍欲しいところでしょう。《見せ場を大切にしないヤツは嫌いだ!》
 
 ただ、手嶌葵の歌だけは素晴らしい。もう、この歌がすべてと言っても過言ではありません。手嶌葵はテルーの声を担当していますが、声優としては素人なので、どうしても棒読みになってしまいます。でも、この素人臭さがかえって朴訥な感じを出し、非常に良いです。今回のクロード・ロラン風の背景画も、監督の吾朗氏も朴訥。まさに「ゲド戦記」は、これまでのジブリ作品にあったケレンさ派手さを捨てた、実に朴訥な作品でありました。《歌を大切にするヤツは大好きだ!》

 ☆☆★(作品としてはダメでも、「ハウル」よりは好感が持てました)
 
「ブレイブストーリー」
 ある人から宮部みゆきはポポロのファンだと言われたことがあります。事の真偽は分かりませんが、この作品を観て、宝玉を集めて剣を強くするとか、頭の上に乗っているモノとか、ネコのガールフレンドがいるとか、願いをひとつだけ叶えるとか、終わり方とか…、似て無くもないなと思いました。
 
 まあ、それはさておき、「ブレイブストーリー」はなかなか良くできた作品です。冒頭の現実世界のシーンと最後のシーンの絡み、現実世界から幻界(ヴィジョン)への持って行き方など、さすがに上手いと思いました。(でも、何故ミツルは外に出られたのだろうか?何故扉のことを知っていたのだろうか?)内容にしても、見せ場は沢山あるし、おかしなキャラクターや種族や怪物たちも沢山出てくるし、さまざまな街や都市も出てくるし、もうてんこ盛りです。
 
 ただ、色々な要素を詰め込みすぎて、それぞれのキャラクターやエピソードがほとんど活かされていません。そのため、すべての印象が希薄になり、結局全体の印象まで希薄にしています。これは実にもったいない。だいたい、各キャラクターのお話にしても、観客に放り投げたまま、何も回収していません。まるで、キャラ紹介のままで終わっているのです。このあたり、どうも商業主義が見え見えという感じがして、好きになれません。(恐らく、TVシリーズも考えているのでしょうね)
 
 絵についても、GONZOお得意のCG映像が人物の動画と違和感がありすぎて馴染めません。実写取り込みの背景やモーション・キャプチャーの動きも、どうも好きになれません。この辺り、手作り感に拘るジブリとは製作姿勢の違いを強く感じます。
 
 そして、最も違和感があったのが声優陣です。特にワタル役の松たか子はいかがなものでしょう。どう頑張っても、少年の声には聞こえないのです。そのため、ワタルが喋るたびに松たか子の顔が浮かび、結局最後まで主人公に感情移入出来ませんでした。有名人に声を吹き込ませて、話題作りしたいという気持ちも分からなくありませんが、もういい加減にこういう悪習はやめにしてもらいたいものです。どうしても松たか子に声優をさせたいのなら、いっそのこと主人公を少女にした方が何倍も面白くなったのではないかと思いますよ。
 
 結局のところ、プロが集まって万人に受けるように作られているのですが、それぞれの思惑がてんでんバラバラの方向を向いているので、どうも作品全体にまとまりのない印象を受けました。でも、それなりのレベルには達していますから、一般客にはちゃんと楽しめます。悲しいことですが、少なくとも「ゲド戦記」よりは面白いでしょうね。

 でも、やっぱり…ファンタジーを粗末に扱っている気がしてならないんですよ、これが。
 ☆☆☆★★★

 (注意:☆は個人的好き度、★はお奨め度です)