7月23日 「ニューオリンズ・トライアル」
 
 日本でも陪審員制度が成立し、2009年に施行されるそうです。裁判を迅速化するのと、分かりやすくするのが目的だそうです。あまり大きな話題にはなっていませんが、これが意外と大変な事なんです。
 
 国民の6人に1人が一生のうちに1度は選ばれる計算ですから、結構選ばれる確率は高いです。国民の義務ですから、選ばれた人は仕事が忙しいからといって拒否は出来ません。裁判の間(1〜2週間)拘束されますので、当然仕事に影響が出ます。サラリーマンの人は会社を休んでも生活は保障されますが、小さな自営業や自由業の人は死活問題になるでしょう。国民の都合を考えないで義務を課す所はさすがにお役所仕事です。
 
 当然裁判の内容に関しては守秘義務がありますから、外部に情報を漏らすと罰せられます。しかも結構重い罪です。殺人などの重犯罪を審議するので、責任も重いし、事件によってはマスコミの注目を浴びたり、逆恨みもされてしまうでしょう。アメリカでは陪審員コンサルタントなんてものもあり、裁判の結果を左右する陪審員のプライバシーを徹底的に調査します。陪審員に選ばれた瞬間、公的立場になるので、文句は言えないのかも知れません。
 
 「ニューオリンズ・トライアル」は、そんな陪審員制度の裏表を分かりやすく紹介した映画です。もちろん州によって制度は違いますが、アメリカでは大体こんな状況なのでしょう。とにかく一般人も議論が出来なければこの制度は成り立ちませんし、弁護士だって情に訴える熱演が必要になります。事件はそっちのけで、陪審員達を調べるコンサルタント業も花盛りです。裁判自体より、裏で暗躍する駆け引きが判決を左右するという点で、なにか異常な気もしますが、これが陪審員制度の最新事情なのでしょう。
 
 とはいえ、作品としてはこれが非常に面白く、二転三転する展開にハラハラしながら最後まで一気に見せてくれます。しかもお話として面白いだけでなく、陪審員制度の問題点や可能性についてもしっかり描いているところが素晴らしいと思います。また合衆国という特殊性が、この物語を更に興味深いものにしていて、映画を観た後も色々と考えさせられてしまいます。
 
 陪審員制度について何の教育も成されていない日本で、何故急にこの制度を導入するのか甚だ疑問が残りますが、日本では裁判官と一緒に審議する独自の形をとるようなので、映画のように陪審員達が追いつめられることはないと思います。宗教色を無くすためにも12人にこだわる必要もないでしょう。それに、殺人などの重犯罪と言うよりは、汚職事件や薬害問題、欠陥自動車や公害問題などの審判にこそ陪審員制度は相応しいように思います。というか、是非そうしてもらいたいと思います。もっとも、そうだったら、議員さん達は誰も賛成しなかったでしょうけど。