6月4日 「ふぉとしょっぷ」
 
 自慢じゃないが、私はアナログ人間だ。絵の具やインクの匂いを嗅ぎ、紙の肌触りを確かめながら絵を描くのを信条とする。長年手を汚し、失敗を重ねながら絵を描き続けてきたおかげで、今では筆を持つだけで穂先に含ませたインクの濃度や色の混ざり具合も、ペン先の摩耗状態もよく分かる。この様に、絵に直接触れ、一筆一筆に魂を込めながら描くのが絵画という物だ。
 
 それがどうだい。最近のデジタル絵画ときたら、仮想キャンバスに仮想画材と仮想筆で描くものだから、何処にも実態がない。肌ざわりも匂いも感じられないから、絵に魂を感じられない。何度でも失敗出来るから、一筆入魂の真剣さが感じられない。誰でも同じタッチで描けるので、個性が感じられない。
 
 …と常々文句を言っていたアナログ人間の私も時代の流れに押し流されて、とうとうデジタルで絵を描き始めることになった。机の下に眠っていた新しい「ふぉとしょっぷ」を引っ張り出して、お絵かきの勉強を始める。しかしマニュアルをいくら読んでも、チンプンカンプンでサッパリ分からない。ソフトのマニュアルという物は、どうしてこう読者をはぐらかすような、分かりにくい文章なんだろうね?なにしろ、こちらが最も知りたい肝心の事に限って、全く触れようとしないのは何故だろう?
 
 文句をぶつぶつ言いながらマニュアルを解読しようと試みるが、なかなかラチが明かない。仕方ないので、マニュアルのマニュアル本を買いに行く。そして改めてマニュアルのマニュアル本を読んで、ようやく分かった。成る程、みんな同じ事が分からないんだ。だからマニュアルのマニュアル本が必要なのだ。う〜ん、これって、とても正常な事とは思えないなぁ。
 
 しかし、本当の勉強はこれからだ。実際の仕事に使えるようになるためには、ソフトの機能を理解した上で、更に自分なりのアレンジを加えていかなければならない。それでようやく使えるソフトになる。まあ、それにはまだまだ時間が掛かりそうだ。でも、今日だけでも、飛躍的にソフトの理解が深まった。紙と画材が全く必要なくなってしまうなんて、アナログ人間としてはまさに革命的な出来事だ。