1月25日「鋼鉄博物館」アングレーム
 
 アングレーム国際漫画フェスティバルでは、期間中あちこちの会場で様々な展覧会が催されている。実は昨日もシュイッテンの展覧会に行ったが、日記に書き忘れていたので、ちょっとだけ紹介する。
 
 フランソワ・シュイッテンはベルギーのコミック・アーチストだが、代表作の「くすんだ都市」シリーズに見られるように、その遠近法を駆使した建築学的構図は独特な無機質感を画面全体に醸し出している。まぁ要するに俯瞰と仰角の多い漫画を描く人で、私は「建物の漫画家」と呼んでいる。兄のリュック・シュイッテンもアーチストで、その「空洞の大地」シリーズはシュイッテンの作風に多大の影響を与えたと言われている。
 
 今回のシュイッテン展では会場そのものがシュイッテンの作品という趣向で、会場のあちこちに無機質な人間のオブジェが配置されていたりして、異様な空間を作り出している。しかし圧巻はシュイッテン自身の製作の秘密を明かすコーナーだ。シュイッテンの机の再現と、製作風景の映像、それに原画の制作過程が余すところ無く展示されていて、非常に興味深い。それにしてもあの直線はフリーハンドだったとはちょっと驚きだ。
 
チェリー夫妻とフレッド
モルバンと彼女
 さて、今日も仕事中の勝川さんを残して一人で先に会場に向かう。さすがに土曜日ともなると人出もかなり増え、どの会場も大盛況だ。人混みをかき分け「DELCOURT」社のブースに行ってみると、オリビアがいたので声を掛ける。早速スタッフルームに招かれて、中に入ってみるとチェリー・ロバンもいるではないか。チェリーの奥さんも紹介されて、色々話しているところに今度はフレッド・ブランシャードが現れたからビックリ。しばらくぶりに再会したのでみんなで記念撮影をしていると、そこにジャン・デイビッド・モルバンも加わって、何だか同窓会みたいになる。海外の作家達はみんな和気藹々と楽しい連中が多い。何か良い感じだなぁ。
 
 フレッド・ブランシャードには去年手紙を出したのだが、住所が変わった為戻ってきてしまった。その手紙をようやく手渡す事が出来てホットする。最近どんな仕事をしているのかと聞くと、オリビアと同じくSF画選集のシリーズをディレクションしているそうだ。
 
 それに、相変わらず映画やアニメの美術設定なんかもやっていて、今度マイク・キャロの映画の美術をオリビアとやるそうだ。それは凄い!マイク・キャロといえば、ジャン・ピエール・ジュネと「デリカテッセン」や「ロスト・チルドレン」を共同監督した奇才だ。どんな内容かは秘密だけれど、かなり期待できるぞ。フレッドはかなり才能のある作家なので、自分の作品を描かないのかと聞いたら、今年中には新作を描き上げるそうだ。こちらも期待大だ。
 
 勝川さんと待ち合わせがあるので、一端みんなと別れて待ち合わせ場所に向かう。昨日と同じマクドナルドの前で待っていると、程なく勝川さんが現れる。昼飯でもとマクドナルドに入ろうとしたが、中は大混雑なので諦める。そう言えば同じ様な店がこの先にあったことを思い出して、二人でそちらの店に向かう。
 
 フランス版マクドナルド「クイック」に入ると、こちらはそれ程混んではいなかった。やれやれこれで昼飯にありつけると店内を見渡してビックリ!な、なんと!又してもモンキー・パンチさんを発見!昨夜の夕食の一件について伺うと、携帯電話が不通だったそうだ。うむ、どちらからも連絡できなかったとは、一体何が原因だったのだろう?良くは判らないけれど、電話番号を間違えたのか?やっぱり操作ミスなのかなぁ?
 
 それはともかく、折角再会したので昼食を御一緒する。話をして驚いたが、モンキーさんはサンディエゴ・コミック・コンベンションに第1回から参加しているのだそうだ。今年で31回を迎えるサンディエゴ・コミコンも、最初はホテルのホールを借りて行われたとか、手塚治虫先生を誘った話とか、コミコンの歴史を色々と教えて頂く。それにしても、アングレーム国際漫画フェスティバルを最初に訪れた日本の漫画家は手塚先生だったなんて知らなかったなぁ。
 
 その後三浦みつるさん達もやって来て、モンキーさん達は次の目的地に向かうので、ここでお別れする。我々は再び「DELCOURT」社のブースに行ってフレッド達と合流し、フレッドお薦めの催し物会場に向かった。何だか知らないけれどかなり面白い催し物らしい。アングレームの曲がりくねった道を探して行くと、路地の先に古びた工場跡みたいな建物があった。かなり人気の催し物のようで会場の外に長蛇の列が出来ている。それもそのはず、入場制限をしているじゃないか。会場の前に掲げられたタイトルは「鋼鉄博物館」。何だか面白そうだぞ。
 
 会場の中に入ると、昔の漫画やポスターなんかが展示されている。どの漫画にもロボットが登場しているので、初めはロボット漫画だけを集めた展示会なのかなと思ったが、何だか妙に変な気がする。何処が変かというと、どの漫画も何処かで見た記憶があるのだけれど、妙に記憶と食い違うのだ。するとフレッドが耳元で囁いた。「こいつはみんな偽物だよ。」あっ、そうか!ここに展示されているのはみんなパロディなんだ。
 
 実はこの「鋼鉄博物館」。古今東西の漫画を全部ロボットですり替えた、パロディ展覧会なのだ。成る程これは面白い。どれもこれも細かいところまで実に良く出来ていて、まるで本物みたいだ。映画やアニメのポスターもマニアックで笑わせてくれるじゃないか。いやぁ、こんな展覧会まであんだから、アングレーム国際漫画フェスティバルは本当に侮れないなぁ。