第1章

2)「ひねくれ川」

 次の日の朝、いちわの小鳥がフロムのすむ木にやってきて、大きな声でよびました。

「フロムのおじさん、お話をきかせてよ!」

「ホウホウホウ、なんだ?なんだ?大声をだしおって。わしは眠いんだ!きのう話しただろうが」あなのなかから、フロムがふきげんそうに出てきました。

「ねえ、お話きかせて!まだねむらないで!ほら、空には雲がかかって、おひさまもでていないよ」

「なんだ、この子は?ひねくれた小鳥だのう。まるで『ひねくれ川』のようだ」

   

「『ひねくれ川』?なんなの、それ?」

「それはな…ひねくれた川のことだ!」

 そういって、フロムはしぶしぶと、「ひねくれ川」の話を始めました。
 そのむかし、この森に一本の川が流れていました。ところがこの川、性格がひねくれていて、森の動物たちを困らせてばっかりいました。なにしろ、その日の気分で流れを変えてしまうのです。昨日あった川が、きょうはべつのところを流れ、あしたはまた別のところを流れるのです。ですから、森の動物たちは川をさがして、毎日森の中を、あちこちさまようはめになりました。そんなわけで、いつしかその川を「ひねくれ川」と呼ぶようになりました。

   

 ある時、サルの長老キキが「ひねくれ川」にききました。

「あんたは、どうして森の動物たちを困らせてばかりいるんじゃね?」
 すると「ひねくれ川」は、フンとしぶきをあげて答えました。

「わしは困らせてなんかいないよ。みんなに水を平等にわけてあげられるように、わざと流れを変えてやっているんだ。感謝してもらいたいくらいだよ!」
 まったくあきれた川です。性格がひねくれているうえに、口も達者ときているのですから、あいた口がふさがりません。

「まったく、困ったもんじゃ」森の賢者と名高い、長老キキも頭を抱えてしまいました。

 ところがあるとき、山で大雨が降りました。大量の水が「ひねくれ川」にながれこみ、さすがの「ひねくれ川」も水があふれて、森全体が水浸しになってしまいました。
 森の動物たちはみな木の上に避難して無事でしたが、いつまでたっても水がひきません。二日たっても、三日たっても、いっこうに水がひく気配がありません。
 そこで、長老のキキが、木の下を流れる川にむかっていいました。

「どこもかしこも川なのだから、こうなってはさすがの『ひねくれ川』も、ひねくれのしようがないな」
 すると、「ひねくれ川」はひねくれて、あっという間に水をひいてしまったのです。
 こうして、森の動物たちは助かったのですが、今度はどこをさがしても川が見つかりません。水はありすぎても困りますが、無いともっと困ります。
 そこで動物たちが集まって、森の中で会議が開かれました。

「さて、『ひねくれ川』を呼び戻すには、どうしたらよいかのお?」議長のフロムが口を開きました。

「もどすにも、どこに消えたものか、とんとわからんぞ」くまのボリスがあたまをかしげました。

「もとはといえば、長老がおかしなことを『ひねくれ川』にけしかけたからだ!」やまあらしのキルケが針をさかだてました。

 するとそこに、長老のキキがやってきていいました。

「キルケ、そうおこるでない。わしに良い考えがある」

「おおっ、さすが森一番の賢者だ!」みんな、いっせいに歓声をあげました。
 こうして、森の動物たちは長老キキの策をきき入れて、それにしたがうことにしました。森のはずれにある谷をうめ、ダムを造り始めたのです。

      

やがてダムができてくると、少しずつ水がたまりだし、みるみる池が姿を現しました。なみなみと水をたたえた池をみおろして、長老がいいました。

「これで、川がなくとも、水にはこまらないぞ」

 すると、どうでしょう――!

「そんなところにダムを造っても無駄なことさ!」
  なんと、「ひねくれ川」が長老の後ろにあらわれたではないですか!「ひねくれ川」は自分が必要ないとわかると、ひねくれて、森にわざわざ戻ってきたのでした。
  こうしてめでたく、フロムの森に「ひねくれ川」が帰ってきましたが、その後もあいかわらずひねくれて、森の動物を困らせています。
  そんな「ひねくれ川」に長老がいいました。

「そんなひねくれた川でも、ホントはみんな感謝しているんじゃよ」
  すると――

「感謝なんか、されたくないね!」
 そういって、「ひねくれ川」は長老に水しぶきをかけると、ふたたび流れを変えたのでした。

「なんてひねくれた川なんだ!」小鳥が口をとんがらせました。「それで、その後『ひねくれ川』はどうなったの?」

「さあ、知らんね」フロムが首を振りました。「だから、これで話はおしまいだ」
 すると、とつぜんフロムの木の下に川があらわれました。

「わっ、ひねくれ川だ!」

   

「わしの話をおわらせない気か?まったくひねくれた川だ!」

【フロムの豆知識】

 世界一長い川といったら、アフリカ大陸を流れるナイル川ですが、水源からの長さで測ると、アメリカ大陸のミシシッピー川が一番です。また日本一長い川といえば信濃川ですが、もともとは石狩川が一番でした。石狩川はものすごく蛇行して流れていたので、治水工事で100キロも短くなってしまったのです。